いつの間にか、電話を待つことが楽しみになっている。別に約束をしたわけじゃないし、まして毎日かけてきてほしいなんて願っているわけじゃないけど、夜が待ち遠しくてしょうがない。
昨日はつまらなかった。先輩には先輩の都合があると思うけど、毎日かけてきてくれたのにそれが急に途絶えると寂しい。土曜がお休みなら、日曜もかな?気にし始めたら他のことが手につかなくなってしまって、昼間も部屋でじっとしていたくらい。
♪♪♪ 先輩専用の着信音。
「もしもし」
“こんばんは。ゴメンね、昨夜は電話できなくて”
いえ・・・。よかった、いつもの調子で。
“明日ビックリさせるといけないから先に言っておくけど、怪我をしたんだよね”
え~!!!どこをどんな風に?
“左腕を骨折した。それでピアノはどうしようかと思ってさっき部長に電話した”
「大丈夫なんですか?」
“え?腕のこと?コンクールのこと?・・・どっちもか”
・・・骨折したのに、何だか楽しそうじゃありません?
“骨折したのは初めてじゃないし、利き腕のほうでもないから大丈夫だよ。それと全国大会のことだけど、君もピアノを弾けるって言ってたよね?”
「ええ、まあ、中学の途中までは弾いてました」
“じゃあ、明日ちょっと弾いてみてくれる?その具合にもよるけど、連弾できたらいいなと思ってる”
「連弾ですか!私そんなのしたことないですし、しかも先輩とだなんて・・・」
“・・・嫌なの?”
「ち、違いますよ。ブランクがありますし、先輩みたいに上手じゃないですし・・・」
“テクニック云々じゃないよ。演技を見ていても感情移入がうまいから、ピアノも聞かせてくれるんじゃないかと思って。だからとりあえず、明日の部活のときに好きな曲を一曲弾いてくれる?いいかな?”
・・・先輩からのお願いを断れるわけないじゃないですか。でも本当に期待しないでください、先輩は私のことを過大評価しすぎですよ。・・・でも殿下も、“もっと自信を持っていい”とおっしゃってくださったし、頑張らないと。
というわけで何を弾こうか考え中。我が家でこんな時間に、しかもしばらく弾いていなかったピアノを弾くだなんて、親から何か言われそうだけど、あまりも下手な演奏だと先輩から言われたら悲しいから弾かなきゃ。
好きな曲・・・。先輩は明るい感じの曲が好きなのかな?