とは思ったものの、忙しさは加速して、明日の部活は休んでほしい、と言われてしまった。嬉しいのだけど複雑な心境だ。でも素性を話したおかげで部長たちが理解を示してくれるようになったのは助かる。
「沢渡くん、そろそろ長官に就任してもらいたいと思っているから、今回の議会は是非とも成功させてほしい。頼んだよ」
長官の言葉に身が引き締まる。・・・ただ、そろそろというのはいつになるのか。もし在学中に就任したら学校には通えなくなるのではないか、との不安が募る。でも僕にとっては政官としての仕事が本業で、学校はあくまでも通わせていただいている、といったところ。やはり、何もかもを手に入れることはできないのだ。
そして今度は殿下の元へ。殿下は会合などもあり、更にお忙しそうだ。
「沢渡くん、試験期間で部活が休みの間は議場に来てくれないかな。控え室で動向を見守って、どんどん意見してほしい」
はい、喜んでそうさせていただきます。
「ただ、できるだけその腕は隠して。そしてくれぐれも表には出ないように」
実は腕を折った後、痛みでうずくまっていたところにたまたま通りかかられたのが殿下だった。もちろんそれから、その経緯を根掘り葉掘り聞かれることになったわけで、そのときにはいくつかお叱りの言葉をいただいた。その最たるものは、人前に出る仕事である以上、見た目も大事であるということだった。カッコイイとか悪いとかではなく、この腕を見せれば、少なからず相手の注意力を散漫にすることになるだろうと。
殿下は自然体で振る舞っていらっしゃるが、プライベートをあまりお見せにならないし、当然のごとくいつも穏やかで、身だしなみに気を配り、いつでも“殿下”でいらっしゃる。僕はよくヘアメイクの仲野さんから、洗顔の仕方とかサプリメントの摂り方をアドバイスされるのだけど、なかなか実践できていない。服を買いに行くことすらもなかなか叶わない。・・・あぁ、反省。
ただ、僕が一つの大きな決断を下したことに関しては、褒めてくださった。・・・勇気がある、と。
「沢渡、ほらカルシウム」
結城はといえば、「この忙しいときにこれ以上厄介事を増やすな、バカヤロウ!」と物凄い雷を落とした後、有紗さんと陛下に僕が骨折したことを伝えに行った。・・・どうやらそのときに、有紗さんにも少々きつい言葉を浴びせかけたらしい、花瓶を投げたのはやり過ぎだったと。そして一連の僕の行動に対しては、ただただ呆れているばかりだ。
「それから、反射神経を鍛えておけよ。お前は運動神経がいいと思っていたのに残念だ」
いや、だから、その・・・。あ、もうこんな時間。
“なかなか電話できなくてゴメン”
・・・毎日謝ってばかりだ。