それにしてもつくづく、先輩みたいな人がどうして私のことを好きになってくれたんだろう、と思う。先輩と私とでは、何もかもが違いすぎる。先輩はこの若さで議会にも携わっている超エリート・・・外見も、成績も、人格もパーフェクト。そんな人から期待されても、平凡な私は一生満足してもらえないんじゃないかと思う。
“もっと自信を持っていいですよ”
殿下はそうおっしゃってくださったけど・・・、先輩から好きだと言われてしまってから、妙に先輩のことを意識しちゃって困る。地区予選までの私はただただ無我夢中でやっていた。でもそれがある程度認められて、加えて未だに信じられないハッピーなことがあって、完全に舞い上がってしまっていた。このままじゃいけない、と思うんだけど・・・昨日先輩にきっぱり言われちゃったしね。でもどうしたらいいのかすら分からなくなってしまっている。
はぁ~。
「何ためいきついているのよ、この幸せ者が」
行きがかり上、若菜と香織には話したのだけど、二人はまだ半分信じてないみたい。・・・私ですらそうなのだから、それも当然だよね。
「どうしたら期待に応えられるのか、分からなくて」
すると二人は不思議そうな顔をする。
「何で?だって地区予選のときにはできてたじゃない。あのときの感じでやればいいんじゃないの?」
「そうなんだけど・・・、今更思い出せないよ。先輩のことを考えるだけでドキドキしちゃって、ましてや顔を合わせたら頭の中が真っ白になっちゃうの。どうしよう、ホントにピンチ」
「でも、電話ではよく話してるんでしょ?」
そうなんだよね。電話だと落ち着いて話せるのに・・・何で会うとうまくいかなくなるの?しかも包帯をしているから、先輩には見えていないのに。
「慣れるしかないんじゃないの?付き合ってるのなら、会いたいってお願いすればいいじゃない」
「そんなことできないよ。先輩は今忙しいって言ってたし、私としても、とりあえずピアノがきちんと弾けるようになるまでは、合わせる顔がないもん」
「それで付き合ってるって言えるのかな?先輩って意外と冷たくない?・・・遊ばれてるだけかもしれないよ」
「そんなことないもん!何で先輩のことを悪く言うのよ!」
とは言え、私にも確証はないんだけど。・・・先輩は、キスすることだって何とも思っていなかったみたい。私も、気になる人の一人なだけなのかな?・・・でも私は先輩のまっすぐな瞳は信じたい。あの瞳に嘘はないと思う。それだけに、先輩の期待には応えなきゃいけないと思う。