7/18 (月) 23:30 聞いてみよう

「沢渡の前で余計なことを言うなよな!」

結城はまだご機嫌斜めの様子だ。・・・まったく、沢渡くんのことを応援しているのかしていないのかどっちなんだ。どうも結城は素直じゃない。この様子では相談できないな・・・。

実は先日、有紗さんから、あるVIPが僕の親友であるギタリスト祐一のファンだから会わせてくれないか、と頼まれた。頼んでみることは簡単だ。でも彼はツアーやレコーディングで忙しいようだし、僕としても仕事での責任が絡んでくるのでそのVIPの名前を聞いておきたいと言ってみたのだけど、できれば内密にと言われた手前勝手に明かすわけにはいかないと、ひとまず保留にされた。

今日は一人で散歩に出ている。いつものように、迎賓館へと向かう海中通路だ。

一旦気になってしまったら止めようがないので、直接祐一に聞いてみようと思い電話をかけてみた。相手にもよるけど、VIPに会うつもりはあるか?と。

“興味はあるけど、貴久が一緒に来てくれることが条件。だってそんな人に会ってもどんな風に振る舞えばいいのか分からないから”

「え?今彼女はいないの?」

人気ロックバンドだからさぞかしモテるだろう、と思いきや、余計なお世話だよ。皇太子ってのはそんなに暇なのか?と返されてしまった。

「でも祐一もこの間議会を見に来ていたじゃないか。あんなところで見つかったら大変だよ?」

“いや、ちょっとお前の顔が見たくなって”

「だったら、一言言ってくれれば裏で会えたのに」

“いや、別に仕事の邪魔をするつもりはなかったし、俺もその後すぐに予定が入っていたからいいんだよ。何て言うか、音楽っていう夢の世界に慣れすぎると現実に疎くなるから、そのギャップを埋めたり、人間ウォッチングをするには、議場は最適なんだ。・・・そういえば傍聴席に、髪が長くて、やたら美しい男がいたな”

そうか、祐一が来ていたことは沢渡くんから聞いたのだけど、祐一も沢渡くんに気づいていたんだね。

「女の人よりも男が気になるの?」

“違うって。俺でなくてもみんな気になるはずだ。現に、周りの人たちはみんな彼の顔を見て一度驚き、熱心にメモを取っている様子を見てもう一度驚いていたからな。・・・いったい何者だったんだろう”

・・・そうかい、そうかい。やっぱりVIPよりも沢渡くんのほうが気になるのか。

“そういうわけじゃないって。さっきの件については任せる。貴久が俺に会わせたいと思うのなら、俺は会うよ”

・・・やはり有紗さんの言うVIPが誰なのか、聞いてみないことには。

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