“どう?眠れそう?”
「はい、緊張はしてません。もう不安なことはないし、先輩の声を聞くと落ち着けるし」
先輩は部活のあとで、“こんなに練習してきたんだから、絶対大丈夫”と言ってくれた。絶対なんて世の中にはないと聞くけれど、先輩がそう言うのなら大丈夫なんだろうって思える。
“よかった。これで僕のほうも安心して眠れるよ。明日は晴れの舞台だからね、楽しみにしているよ・・・ただ、綺麗な深雪が見られないのが残念だけど”
・・・以前よりはマシになったと思うけど、今でも先輩に見つめられるとドキドキしてしまうから、そのほうがいい。
「私はあくまでも先輩の引き立て役ですから、観客のみなさんが先輩に釘付けになってくれるように頑張ります」
・・・すると先輩が、しばらく黙り込んだ。・・・何か変なことを言いました?私。
“いやいや、深雪は脇役よりも主役向きだと思って。やっぱり深雪の演技って印象が強いんだよね。だから、僕もそれに負けないくらい相当頑張らないといけないというわけだ”
いや、あの、それは・・・。大体先輩は、立っているだけで周囲の注目を集めてしまう凄い外見の持ち主なわけで、そんな先輩が更に迫真の演技を見せてくれるとなると・・・私でさえDVDを見ながら何度も泣いてしまったくらい、圧倒的な主演男優になってしまうわけで・・・。
“涙は少しだけにしてね、もったいないから”
「先輩、もったいないって・・・」
“独占欲は希薄なほうだと思っていたのに、ちゃんとあったみたい。・・・深雪、明日は僕のことを思いっきり励まして。その分は、明後日お返しするから”
・・・明日の舞台がうまくいったらデートをしようということになっているのに、すでに行くことになってるみたい。・・・ううん、もちろん私も先輩とデートしたい。でもまずは明日のこと。
「先輩はまだ寝ませんよね?」
“僕?・・・うん、まだしばらくは起きているけど、美容のために早く寝るように、とは言われている。・・・男にそういうことを言うもんじゃないよね、普通は”
「でも先輩は綺麗だから、いつまでもそうあってほしい・・・」
“そう?じゃあ僕も今夜は早めに寝るかな?じゃあ、お休み”
「おやすみなさい・・・」