殿下がアイツ・・・とおっしゃっていたのはモーリス殿下のことだったようで、もともと響殿下とお二人で昼食を取られる予定にはなっていたそうだけど、それが夕食に変更になった上、急に僕も呼ばれることになったのだとか。
“君はどうして急に、こんなことを言い出したのかな?僕にだって予定があるんだよ”
モーリス殿下が住んでいらっしゃる宮殿に伺い、国王陛下に挨拶をさせていただくと、モーリス殿下は自室へと案内してくださった。響殿下は、彼はいつも厄介なことをふっかけてくるんだよ、とぶつぶつおっしゃっていたが、友人との再会を喜んでいらっしゃらないわけではなさそうだった。
“Sawaに会いたかったんだよ。演劇のコンクールで優勝したんだってね、Maiがとても感動したと言ってた”
“だから、どうして舞と話しているんだって!”
“まあまあ、そんなに怒らないでよ。Sawaに朗読してもらいたい本があるんだ。Takaとしても悪くないと思うよ”
本の朗読ですか?モーリス殿下とは以前にもお会いしたことがあったけど、あくまでもおまけとして殿下に連れて行っていただいただけで、それほど親しくさせていただいたわけでも何でもなかった。なのに何故?
“Takaは明日…に行くんだよね?あそこの国の国防長官が、最近乱心気味で危ないんだよ。もともとは芸術に造詣が深くて素敵な人だったんだけど、貿易のことでトラブったり、国内でいろいろと問題が起きたりしたおかげで、よからぬことを考えることがなきにもしあらず、という感じなんだ。だから、TakaとSawaの力を借りたいわけ。お願いしてもいいかな?”
モーリス殿下・・・。僕が聞いていたモーリス殿下は、やりたい放題で我が道を行く、よって周りの人を振り回す、という感じだったから・・・、と思って響殿下の様子を伺うと、同様に非常に驚いた表情をなさっていた。
“僕だって近くで戦争を起こされたくないんだよ。平和であって初めて、僕も好きなことが出来るわけだし・・・”
“分かったよ。このくらいのことで役に立てるなら・・・いいよね、沢渡くん”
“はい。・・・ですが、どんな本なのでしょうか?”
モーリス殿下が差し出されたのは、絵本だった。しかし、子ども向けではなく大人向けの。
“是非読んでみてよ。僕の彼女が書いたんだ”
コラッ!と響殿下はモーリス殿下とすぐさま口論を始められたが、僕はその絵の美しさに惹きつけられ、またその展開が気になって、夢中でページをめくっていた。