とりあえず全て終了させ、僕たちは機上の人となっている。この一週間は本当にスケジュールが立て込んでいて大変だった。しかし、昨夜の殿下のお言葉から察するに、帰国後も以前よりは忙しいことになりそうなので、今は少しでも眠っておくことにしようかと思っていたら、殿下がまたも、大事な話があるとおっしゃる。
「朝霧くんが、最終選考に残ったそうだよ」
そう、僕の親友もまた外国で頑張っている。メールのやりとりはしているけれど、最終選考に残ったというのは、僕の端末にもまだ届いていない最新情報だ。・・・ですが、それが改まっておっしゃるほどのことですか?
「実はこれが、大いに関係あるんだ。朝霧くんがいい成績を収めればマスコミがクリウスに殺到することになり、彼の親友である君にも取材が及ぶだろう。となると、もはや隠し通すことが困難になるに違いない。よって君には、財務長官に就任してもらう」
・・・それが、早ければ来月、の意味でしたか。・・・朝霧に優勝してもらいたいような、してもらいたくないような。
「そこでだ、沢渡くんにはその心構えを聞いておきたい。君には9月1日に就任会見を開いてもらう、これはもうすでにほぼ決定事項なんだ。今回の外遊以前から決まっていたことだが、君に負担をかけないようにと思って黙っていた。また今回の働きぶりを見て、君になら任せられるという確信を強めた。だから、引き受けてくれるね」
もともと、いずれ財務長官に就任することは決まっていて、すでに引き継ぎもほぼ終わっている。だからそれなりの覚悟はもう出来ているのだけど、いざその言葉をいただくと、すぐさまお答えしてはいけないような気がした。・・・一つ呼吸をして、心を落ち着かせて、殿下の目をまっすぐに見つめさせていただいて、
「謹んでお受けいたします。陛下、そして殿下のお力になれますよう、精一杯務めさせていただきます」
「ああ、よろしく頼むよ。これから忙しくなるからね、覚悟しておいて」
はい、分かりました。そして差し出された手に、僕の手を重ねる。
「こんなに大きくなって、そして頼もしくなって・・・結城じゃなくても、抱きしめたくなってしまうよ」
あ・・・いえ・・・、そういうことをおっしゃっていただくと照れ臭いんですけど。何せ、殿下とは結城よりも早く知り合った間柄で、しかもそのとき僕は泣いていて・・・。
「いや、それは宮殿に帰ってからの楽しみに取っておこう。・・・それよりも、そうと決まれば深雪ちゃんに電話だよ」
はい?何ですか、その展開は?
「宮殿に来てもらえるように僕がお願いするから、はい、電話して」
殿下は手元の受話器を僕に差し出された。
「あ、いきなり僕に替わらなくてもいいよ。5分くらいは待ってるから、恋人との会話を楽しんで」
・・・そんな!殿下の前でそんなこと出来ませんって!