「大丈夫ですよ。深雪さんは特に気にされていないご様子でしたし、それだけ打ち解けていらっしゃるということでもありますし、いい傾向なのではありませんか?
加藤はそう言ってくれたけど、折角二人きりになれたのに、リラックスしすぎて寝てしまうだなんて、男として情けなさ過ぎる。結城には絶対言わないように、と口止めするのが精一杯だった。
今日からは部活が再開する。朝霧は昨夜帰ってきたものの、やはり公演依頼が殺到しているらしく、文化祭での新作には出演しないことになった。でもその前に、今日は加藤にも来てもらって、部員のみんなに事の経緯と今後の対応策について話をさせてもらった。
「そういうわけで注目度はかなり高くなるから、気合いを入れて頑張りましょう。早速ですが、台本ができているので配ります」
文化祭は三日あり、初日と最終日には全国大会で演じた「新たなる一歩」を、そして二日目には新作を上演することになっている。みんな、僕や朝霧のことがある程度気になっているみたいだけど、今はそれよりも新しい台本が気になるみたい。かく言う僕も、受け取るなりそのままの勢いで配役のページを開くと・・・“悪魔”!?兼古先輩が“天使”!?
「沢渡くんが、悪役をしているところが見たかったのよ。まず普段から黒い服を着ていることが多いから、悪魔の出で立ちが似合いそうでしょ、それに普段では決して見られないような沢渡くんが見れるとなると、話題作りにもいいかと思って」
ストーリーとしては、ある女の子を誘惑しようとする悪魔とそれを妨げようとする天使のバトルになっていて、先輩と対決するのは面白そうだと思うけれど、女の子を演じるのが3年の先輩になっているのが少し残念だ。・・・深雪は今回は地味な役になっている。
「ゴメンね。ヒロインを演じてもらいたかったんだけど、そんなことをすると深雪ちゃんへの風当たりが強くなるし、沢渡くんにも影響が及ぶと思ったから」
部長はすまなそうにわざわざ言いに来てくれたけど、僕としても僕たちの交際はしばらく公にしないようにと言われているから、致し方ないと思っていた。・・・でも本当は、深雪相手なら燃えるのに、とも思う。
「それで沢渡くんには、血も涙もない、冷徹な、でもセクシーな悪魔を演じてもらいたいと思っているの」
「僕を担当してくれている、ヘアメイクの仲野さんに参加してもらってもいいですか?」
「それは心強いわね。衣装はどうしようかな?」
「ちょっと待てよ、美智、あんまり悪魔に加担するなよな。勝つのは俺のほうだろ?」
「ううん、稽古の進み具合によっては、変わるかもしれないわよ~」
・・・そんなのありですか?
「それじゃ、台本を読みましょう。みんな集まって」