沢渡に、何時でもいいから連絡をくれるようにとメールを書いておいたら、夜中にかかってきた。
“すみません、本当に忙しくて。でも来月になったら、もっと忙しくなるかもしれないんですよ。ちゃんと部活に行けるか心配です”
だったら余計に、今月中に詰めておいたほうがいいよな。
「でもそれ以前に、深雪ちゃんのフォローはしておけよ。相当参ってるみたいじゃないか」
“大丈夫ですよ。今も、先輩より先に彼女に電話しましたから”
「電話だけでいいのかよ、ハグとかキスとかは?」
“そこまで心配してくれなくても大丈夫ですって。部活以外の時は三割増しで優しくしてますから”
・・・でも深雪ちゃんは、気持ちの切り替えがうまくできないって言ってた。ギャップが激しいと余計に困るんじゃないか?
「お前は大丈夫なのかよ。忙しいくせに、役作りがバッチリすぎないか?」
“だって、悪い役もやってみたかったんですよ。嬉しくてしょうがないです”
・・・コイツ、意外にもサディストのようだ。そりゃ、俺たちとしてはいい仕上がりになればそれで十分なわけだけど、役を引きずってしまったあまりトラブルが起きた苦い経験があるから、それを繰り返してはならない。・・・もう、回りくどいことは言ってられない。
「なあ、仕事に行く前にちょっと深雪ちゃんと過ごしてやれよ。・・・そうじゃないと、深雪ちゃんが参ってしまうと思うんだ。お前は彼氏なんだから、ちゃんと面倒を見てやれ、俺に押しつけられても困る」
“別に押しつけたりなんか・・・”
「見てられないんだよ、もう。だからと言って俺が深雪ちゃんのことを構ったりしたら美智に睨まれるし、本当に迷惑してる」
“迷惑って・・・先輩”
そのくらい言わないと分からないんだ、コイツは。
「忙しいとは思うけど、それでも彼氏になったのならちゃんと責任を取れよ。別に時間をかけなくてもできることがあるはずだ、不安がらせたりするな」
“・・・ご忠告ありがとうございます。でも、彼女は大丈夫です。そんなにヤワなんかじゃありません。確かに今は戸惑っているかもしれませんが、役はきちんとこなしてくれるはずです”
・・・そうか?でも沢渡がそんなにはっきりと言い切るなら大丈夫なのかもしれない。何だか最後は押し切られるような感じになったけど、深雪ちゃんのことが危なっかしく見えたのは、俺のひいき目のせいだったのかな。