「どうしたの?暗い顔して」
休み時間に若菜がやってくる。
「うん、なかなか役に入り込めなくて困ってるの。昨日だって、折角沢渡先輩が部活に来てくれたのに、迷惑ばっかりかけちゃって・・・最悪」
もちろんあれから、どうしたらいいのか目一杯考えている。気持ちの変化を客観的に確かめて、場面がきちんと繋がるようにする・・・その日の調子によって、例えば希さんが部活に来られないからといって、テンションを変えるわけにはいかない。・・・今日は学校に来れないって言ってたな。そう思うと、昨日は私のために無理して学校に来てくれたはずだったのに、ガッカリさせちゃった。
「大変なんだね、演劇って」
「でも凄く好き。やりがいを感じるよ。だから納得できる演技を見てもらいたいと思ってるんだけど、先輩方のレベルが高い分ついていくのが大変、というのが正直なところ」
「でも、まだ1年生なんだからしょうがないんじゃないの?差があって当然だよね」
そっか、そうだよね。こういう時こそ、先輩方に意見を求めればいいんだよね。
ということで、昼休みの学食で、思い切って部長と兼古先輩のテーブルに押しかけてみた。
「深雪ちゃんがそこまで気に病むことないわよ。リクエストにはきちんと応えてくれているし、演出家の目から見た女優深雪ちゃんには何の問題もないわ。問題がないどころか、私の感性を大いにくすぐってくれたから脚本を書き換えてしまったのは、深雪ちゃんも知っての通りでしょ?」
・・・私が強そうに見えたんですか?
「最初はちょっと心配だったんだけど、地区予選、全国大会の時にもしっかり期待に応えてくれた。いろんなことがあったのに急なリクエストにも応えてくれた。そこでね、頼もしいなって感じたのよ。そして私たちは、深雪ちゃんのファンになっちゃったわけ」
「そうそう、あの沢渡が一目置いているのにも納得」
そんな・・・、買い被りすぎですよ。
「本人にその自覚がないところが、またかわいいんだよな。・・・でも辛いときは言って。俺らは折角頑張ってる深雪ちゃんに水を差すようなことだけはしたくないんだ」
先輩・・・。また泣きそうになってきた。え~、私は全然強くないですよ。
「大丈夫、深雪ちゃんはきっとできる。応援してるよ」
だから・・・、そうやって優しくされることに慣れてないんですよ、私は。