今日を逃すとしばらくは学校で一緒に昼食を取ることが難しいので、この時間だけは死守した。深雪は、大丈夫かな?と心配そうな顔をしていたけど、一応兼古先輩たちがいる学食にしたし、とりあえず先輩方に挨拶をしてから二人でテーブルに着いた。・・・その横顔はまだカタイ。
「テスト勉強は順調?」
僕は敢えてそう聞いてみた。そうしたら、にがーい表情になって、むくれて、
「普通、いきなりそういうこと言う?他人の気も知らないで。もう・・・」
と文句を浴びせかけ、僕のことは全く無視して食事に向かったものだから、思わず爆笑してしまった。
「何がおかしいのよ」
「あまりにも予想通りの反応をしてくれたものだから、つい・・・」
それで深雪も気づいたのか、そんなに笑わなくてもいいでしょ~と、僕の肩をドンと押した。・・・見事に仲むつまじい様子を披露してしまったな。彼女が特別だってことはみんなに理解してもらえただろうか?
「でも、食べてからでいいから、一つだけ教えてほしい問題があるんだけど、いい?」
・・・よかった、いつもの調子に戻っている。それはもちろんいいよ。
午後イチの授業は、担任による政治経済のはずだったけど、今日は出張のため自習。でも担任から、できるだけ今日の授業に来てほしいと言われていたので、リクエストに応じることにした。・・・そうすれば何かにつけうまく取りはからってくれるということだったので。
そして、置き土産のプリントをクラスメートに配り、教壇に立つ。
「自習課題はこのプリントだそうです。分からないところは、どうぞ僕に質問してください」
本当に?マジかよ、という声があちこちから上がる。クリウスの試験では、客観的な設問だけでなくいくつかは論述が出される。将来的に大企業を背負って立つことになる生徒たちもいるため、特に社会系の科目では、時事ネタを含めた難易度の高い問題が出されている。
「沢渡、この間の議会で通った福祉関係の法案があっただろ?あれ、何だっけ」
それは、ニュースや新聞でも多くのスペースを割いて説明されていたはずだけど、僕なりに分かりやすく説明をする。
「そういうことだったんだ、凄く分かりやすいよ」
「すご~い。よく分かった。もっと質問しようよ」
なかなか好評みたいだ。中にはとても鋭い指摘をしてくる人たちもいた。・・・これは僕にとっても面白い。みんながどんなことに興味を持っているのか、どんなことが分からないかを肌で感じることができた。こういうことがいろんな場所でできたら、国民の政治への関心がもっと高まるに違いない。