11/4 (金) 15:00 遠足

昼前に遊園地のゲートに到着すると、担任、兼古先輩、清水先輩、朝霧、深雪の他、多くの一般客が出迎えてくれた。

「じゃ、沢渡は出席ってことで。よし、遊びに行っていいぞ」

担任と別れてからまずしたことは、深雪に謝ること。

「ゴメン、折角一緒に遠足を楽しめると思ったのに、この先輩方が問題を抱えているって言うんだ。先にそっちを解決してもいいかな?」

「うん、別にいいよ。・・・それどころか、私が一緒にいてもいいの?」

深雪にもぜひ一緒にいてもらいたい。この大人げない先輩方のために、そして仕事で疲れている僕のために。・・・そして、そっと手をつなぐ。

話は、みんなで観覧車に乗るなり始まった。怒濤のようにまくしたてる清水先輩。

「つまり私は、お父さまや沢渡くんを利用して有名になろうとしているのが許せないの。しかもコソコソ行動したりして、やり方が汚いのよね」

・・・でも兼古先輩は言い返さず、僕に視線をくれただけだった。こんなやりとりはすでに何度も繰り返されているみたいだ。

「まず、生まれは今更変えられません。それに僕は別に迷惑しません。純粋に、役者になりたいという兼古先輩の気持ちを応援したいと思います」

「ちょっと待って。祐輔がなろうとしているのは、役者じゃなくて単にテレビに出る芸能人よ。そうなればプライベートだってなくなるし、演技力には目が向けられなくなるわ」

まあまあ、落ち着いてくださいよ。

「最初はそうかもしれませんが、実力があればきちんとそれを認めてもらえるはずです。・・・僕は朝霧のファーストアルバムにも協力することにしました。僕には影響力があるかもしれませんが、それとは関係なく、いいものはいいと言える自分でいたいんですよ。そういう意味で、僕は兼古先輩が役者の道を歩んでいく姿をぜひ見てみたいです。・・・僕以外にも見てみたい人はいる?」

すると、朝霧、深雪、・・・少し間を置いて、一緒についてきた加藤も遠慮がちに手を挙げた。

「どうなっても知らないわよ」

「若いうちにしかできないことってたくさんあると思うんですよ。でも若いうちって意外と短いみたいですよ。それに清水先輩、まだ最終オーディションが残っていますし、もう少し様子を見てみましょうよ。・・・急に兼古先輩がどこかに行ってしまうわけではありませんよ」

清水先輩ははっとして、次にうなだれた。・・・要は独占欲の問題だ。いつも近くにいた人が、知らないことに手を出したり、遠くに行ってしまったりすることに、不安を感じているに違いない。

「ありがとう、沢渡。俺、人生で初めて強い意志を持ったんだ。だからやれるだけのことはやってみたい」

「・・・でも、それで大臣に納得していただくのは難しいと思いますよ。大学にはきちんと行く、と言ったほうがいいんじゃないですか?」

・・・やっぱりそう思うか、と、これには兼古先輩の表情も曇りがちになったが、とりあえずは大臣にお話しする前にまた打ち合わせをすることにした。何せ今日は、数少ない、他学年との交流行事、遠足なのだから。

本当は深雪と二人で歩きたかったのだけど、それではあまりに注目を集め過ぎてしまうということで、僕たちは引き続き団体行動をすることになった。それでも、アトラクションに乗ったり、併設されているショッピングモールで買い物をしたりできて楽しい。大体、昼間から外を歩くことすら珍しいのだ。そのとき、

“左後方、空き缶です”

警告音と共に加藤の声がカーフピアスから届いたので、振り向きざまにキャッチした。その先には仕官によって取り押さえられている、制服姿の学生がいた・・・イスト学園だ。

「いいよ、放してあげて。僕たちが人目を引いているせいで、他の入園者に迷惑をかけているのは事実だから、空き缶くらい投げつけられてもおかしくない。ケガもないし、大丈夫だから」

分かりました、と下がっていく加藤。

「何で飛んでくるって分かった?」

不思議そうに聞くのは兼古先輩。

「テクノロジーのなせる技ですよ。はいはい、立ち止まっていると更に迷惑がかかりますから、行きましょう」

ふ~ん、と納得はしてくれたものの、いささか疲れたので、レストハウスで休憩することになった。するとそこに訪問客が。

「おくつろぎ中のところ失礼します。私はイスト学園高等学校で生徒会長を務めております、早川一真(かずまさ)と申します。先ほどはウチの学生が沢渡さんにご迷惑をおかけしたとのことで、申し訳ありませんでした」

・・・堅苦しい挨拶。イストは陛下や結城、加藤の母校であり、多くの政治家、文化人を輩出している学校だが、国立だからかクリウスとは校風が全く違うらしく、相容れないところがある。この早川くんとやらも、いかにも秀才タイプで、僕としては友達にはなれそうにないと思ってしまった。

「わざわざ足をお運びいただきましたが、ご心配には及びません。同じ生徒会長同士、これからも顔を合わせることがあるかもしれませんので、そのときはまたよろしくお願いします」

にこやかに握手をして別れておく。・・・折角の遠足なのに、楽しめないよ。そっとしておいてくれないかな?

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