折角の遠足だったのにあまり一緒の時間を楽しめなかったので、夕食に誘った。
「兼古先輩の演技がこれからも見れると嬉しいな~」
と深雪は楽しそうに話していたけど、学校以外じゃないとできない話もある。
「蒸し返すようでゴメン。・・・林田さんに会った?」
学校生活はまだ続く。忘れてしまったほうがいいとも思ったのだけど、深雪の身にこれ以上何かあったら大変だから、状況はきちんと把握しておくべきだと思った。
「ううん、会ってない」
うつむいて首を横に振る彼女の手をぎゅっと握る。
「俺が釘を刺しておいたからこれ以上は何もないと思うけど、事を公表したせいで、深雪が居心地の悪さを感じてるんじゃないかと心配で」
「・・・自業自得なところもあるから、気にしないで。・・・あの日、林田先輩からちょっと嫌なことを言われて、・・・だから私もちょっと嫌な女になっちゃったの。人前なのに、・・・希は私のものなんだってアピールしたくなって、つい名前で呼んじゃったのよ。怒るのも無理ない」
「深雪は悪くないよ。どんなことを言われたんだ?」
するとますます小さくなって硬くなってしまったので、個室なのをいいことに深雪の隣に移動して肩を抱いた。
「私なんかどうせすぐに捨てられるだろうって。・・・清純そうなのが珍しいだけだって」
「そんなわけないじゃないか。もう、お前なしでは生きられなくなっているのに・・・」
「希・・・ありがとう。希の気持ちを疑ったりなんてしないけど、・・・まだ私の知らないことがたくさんあるじゃない?知らなくてもいいのかもしれないけど、他の人から教えられるのは嫌だなって・・・」
・・・有紗さんのことか?・・・それも気になっている、医療室で何があった?
でも深雪がそう言うなら、僕のほうから話しておこうと思った。別に隠すことなんてない。有紗さんとの付き合いから学んだことはたくさんある、そしてそれがあるから、前より上手に付き合うためにはどうしたらいいかをあれこれ考えられる。
「今は深雪のことしか見てないよ。・・・何を言われたのかは知らないけれど、有紗さんとのことは終わったことだ」
「・・・でも、希と同じ香りがしてた」
香り!?有紗さんからいただいた香水は今では使っていないのに、・・・どういうことだ!?
絶対に何か魂胆があったに違いない。・・・けれど、このまま知らないフリをしておこう。変に関わり合うと、余計にこじれると思うから。