話したいことがあると言ったのはイストとクリウスの問題についてのことで、結城に何があったのかについては結局何も分からずじまいだった。ただ、今日は朝からすっかりご機嫌なので、それはそれでいいのだけど、やっぱり気になってしまうので、昼食のときに殿下に伺うことにした。
「まあ、入宮試験ではイライラしていたらしいけど、具体的に何があったのかまでは知らないよ。・・・こういうことは時々あるの?」
「僕が慰めてもらうことは時々ありますが、結城からは稀です。ですがそれ以上に問題なのは、慰め方です。・・・キスするんです、僕たち。それってやっぱり、おかしいですよ、ね?」
ムムム・・・、と身体を乗り出してこられて声を潜める殿下。
「頬にキスをされることは僕もあるけど、・・・その様子で行くと、深いの?」
「はい。・・・しかも、悪い気はしないんですよね。深雪とのキスとはまた違う感覚で、その・・・」
「まさか、キスより深い関係だなんてことは・・・」
「それはありません!し、そんなことは絶対させません!けど、もし結城から求められたら、拒めません・・・あらゆる意味で」
ほぉ~と、殿下が身体をソファーに戻されて、腕組みをされる。
「それは今のうちにはっきり結城に言っておいたほうがいいよ。結城だって、大事な沢渡くんが嫌がるようなことはしたくないと思う。それに沢渡くんにしても、大事なのは分かるけど、彼はいい大人なんだから、君がわざわざ相手をしてあげなくてもやっていけるよ。甘やかさないっていうのも愛情表現だと思う。まあ、僕としては、別に二人がどういう関係になろうが、仕事に支障を来さないならば構わないけどね」
ちょっと殿下!・・・お願いしますよ、もう。最後の一言は余計ですよ。
ひとまず殿下にはお礼を言って次の仕事に行ったのだけど、僕の気持ちはモヤモヤしたままだ。
「加藤は、僕と結城がキスしているところを見ても何とも思わないわけ?」
沢渡班の仕官たちの前では結城はお構いなしにキスをしてきて、仕官たちもまた何事もなかったかのように仕事を続けるのが、普通になっている。
「特には。結城さんと沢渡さんの間に家族以上の結びつきがあることは十分承知しておりますし、結城さんが沢渡さんのためにそうなさっているのは傍目からも分かりますので、微笑ましく見守らせていただいています」
僕のために?・・・じゃあ、僕が悪いってこと?・・・でも、結城が自分のためにキスを求めてくる場合はどうなんだ?
「確かに、沢渡さんには並々ならぬ愛情を注いでいらっしゃるようですが、別に恋愛感情を持っていらっしゃるわけではないと思いますよ」
カラダだけの関係になったら、それはそれで困るよ。
・・・ところで一体、僕は何に対して焦っているんだ?結城から求められること?・・・それよりも拒めない自分のほうが問題だ。僕だって決して恋愛感情を持っているわけではない。・・・つけ込まれるような隙を見せないこと、これに限るよね。
深雪に電話しよう。