毎日緊張するのがこの瞬間。
「沢渡さん、おはようございます」
「うん・・・。おはよう。・・・今起きる」
もともと沢渡さんは朝が弱くていらっしゃるのだけど、財務長官に就任されてからは、ますます睡眠時間が短くなっていらっしゃるので、起こし申し上げるのは忍びない。しかし、その割にこの程度で済んでいるのは、深雪さんがモーニングコールをしてくださっているおかげだ。
「今日は何をお話しされたのですか?」
こういうときは、少しでもテンションを上げてくださるように楽しい話題に持って行くのがポイント。そしてその間に寝室のカーテンを開ける。・・・あ、携帯電話を持ったままの姿勢で横になっていらっしゃる。
「昨夜の『H-K Time』の話だよ。・・・今日は朝から、僕を嫉妬させる作戦に出たみたいだ」
深雪さんもなかなか考えていらっしゃいますね。・・・いや、無意識だったら恐ろしいです。深雪さんは単純に殿下のファンでいらっしゃるようですから。
「ですが、今日はお昼にはお会いになれるではありませんか。さあ、朝の仕事を早く片付けましょう」
「はい、はい」
朝食の席に着かれる頃にはすっかり目が覚められたようなので、私も今日のスケジュールを申し伝える。陛下が宮殿にいらっしゃるときには、朝食会を招集なさったり、そうでないときには結城さんがいらっしゃることがあるが、今日はお一人での朝食だ。そしてそういうときは、申し伝えの後は私も一緒に席に着かせていただく。
「早川のヤツ、謝罪メールをよこしてきたよ。“確かに僕には他人の話を聞き入れないところがあるかもしれない”って。でも“僕のことを分かったような素振りで話さないでほしい”とも書いてきた。なかなか厄介だよね。アイツとうまくやっていけるのかな?」
「早川さんは、それでも入宮を希望されるでしょうか」
「王宮としてはぜひとも手に入れたい人材でしょ?だから僕の接し方によるんだよね。・・・でも僕は嫌いじゃないよ、彼は不器用なだけなんだ。今までに会ったことがないタイプだから僕としても戸惑っているけど、根はまっすぐなヤツだから、一旦打ち解ければ付き合いやすくなると思う」
確かに、先日も沢渡さんは仰っていたが、早川さんには何かしらの因縁めいたものを感じる。だからこそ、結城さんも、そして私自身も、入宮されることはほぼ確実ということで接している。
「結城に会いたがってるんでしょ?それが叶うまでは大丈夫だよ」
部屋に“仲野が参ります”とのアナウンスが流れ、それを合図に沢渡さんは、一足早く食卓を離れて洗面所のほうに行かれた。