それでもまずはテストをクリアしなければ!と、午後は勉強に励んでいたものの、まだ数学の問題がスムーズには解けない。希がコピーしてくれた、去年のテストの解答の意味を何とか読み取ろうとしているのだけど、2行目から3行目がどうしてこうなっているのかがよく分からない。・・・聞いてみようかな?と思ったのが2時間前、そして今、希が隣にいる。
「これ見て。この三角形と、この三角形が相似だということから、比例式を立てるんだ。三角比の式を習ったからってそればかりに気をとられていると、失敗するぞ」
なるほど・・・。要は私の視野が狭すぎるってことね。
「まあ、女の子はもともと、脳の構造的に図形の把握が難しいから、そんなに凹むことないって。いくつか解いてみれば見えてくるから、次の問題も頑張ろう」
はい。希の説明は凄く分かりやすいし、厳しいだけじゃなく励ましてもくれるので、素直に聞き入れることができる。一つの方法でダメなら、違う方法を試して・・・、これでどう?
「うん、正解。深雪には教え甲斐があるよ。飲み込みが早いし、一生懸命だし、ますます応援したくなる」
え?ホントに?・・・ふと振り返ると、今日は普段着の希が穏やかに微笑んでいて、思わずドキッとしてしまった。うわ~、今のこの瞬間まで、希がこんなにもカッコイイ人だったということを忘れてた・・・。前までは体温を感じるだけでドキドキしていたはずなのに、いつの間にか何も感じなくなってる。これってどういう・・・!?
「何?どうかした?」
「・・・希がカッコよくて、ビックリした」
うわ。恥ずかしくて、まともに顔が見られない。
「今更何言ってんだよ。勝手に俺のことを忘れるな」
ううん、そういうわけじゃなくて・・・と、もう一度希を振り返ると、今度は半ば呆れたように、腕組みをしながら私のことを見下ろしていた。・・・素敵。そんな様子ですら、素敵。
でも、やっぱり笑顔でいてくれるほうがいいな。頑張ってこの数学を何とかしなくちゃ!
「ごめんなさい。次お願いします」
「はあ?・・ああ、試験前だもんな。次行くぞ」
はい。忙しいのに来てもらったんだから、やるべきことはちゃんとやってしまわないと。これが片付いたら、少しくらい甘えてみてもいいよね?・・・また、あんまり希のことを意識しなくなってる。側にいてくれることが普通、みたいな。