貴くんって頼もしいな。本当は彼のほうが格段に優れているので、私には学ぶべきところだらけなのに、今までもったいないことをしてたね。今まで一人でしゃべりすぎてたよね。
「今日は何する?」
毎日聞かれるこのセリフ。実は今日は一緒に舞台を見に行きたくて、仕官の方にチケットを手配していただいた。だからそれまで、おいしいスイーツ屋さんめぐりをしたい。
「もしかして、また貴くんの知り合いが登場したりする?」
「う~ん、舞が終演後キャストに挨拶したいと言うなら取り次いでもいいけど、できれば邪魔をされたくないというのが本音」
そんなこと言って。でも昨日はいろいろと詳しい話が聞けて、とてもいい時間を過ごすことができた。私も最近は一人で公務に行くこともあって、文化施設を見学したりすることもあるけど、貴くんの質問が変化球で、あまりにも面白すぎたから、やっぱり二人がいいなと思ってしまった。
「同じものを見ているのに、貴くんの目の付け所には驚かされてばかりだわ」
「僕のほうも同じだよ。舞はそんな風に見ているんだと、いつも新鮮な気分を味わっているよ」
「どう?このスイーツのお味は?」
とある有名なショコラティエで、スイーツをいただいている私たち。貴くんは一口一口味わうように口に運んでいる。
「口溶けが優しくてビックリするね。口に入れた途端にフワって。体温くらいで溶けるように、みたいな科学的実験を行っているのかな?」
私も、ホーンスタッドのショコラとは溶ける温度が違うというのは聞いたことがある。
「作っているところを、見学させていただけたらいいのにね」
「ご覧になりたいですか?」
給仕をしてくれていた男性が、笑顔で話しかけてきた。また貴くんのお知り合いなのでは?とチラッと様子を伺うと、違う、違う、と目で合図をしてきた。
ということで、二人で作業場を見学させていただくことになった。
「仲がおよろしいんですね」
「はい、今回が私たちの新婚旅行なんですよ」
と言っている様子からも、今回のことはたまたまだったようで、お店の方も私たちのことを知らないみたい。でも貴くんが目を輝かせて作業の様子を見学しているところを見ると、私としても嬉しい。
「折角なので、お祝いをさせてください」
パティシエは、そうおっしゃって、特別アレンジのスイーツを出してくださった。こんな素敵なサプライズが起こるのも、貴くんが一緒だから。この人とずっと一緒にいたい…。