まだメッセージを送っても「既読」がつかない。考えるまでもなく忙しいよね…。
昨日国葬の会場でも感じたように、とてつもない距離を感じている。あの場にいたのはごく一部の人でしかなくて、本当はもっともっと多くの人たち、ホーンスタッドだけではなく、世界の人々の期待を背負って立つ人になる。そんな凄い人の時間を、私のために割いてもらおうとは思わない。
今日、希は皇太子に即位する。昨日は国葬のため急遽国が休日になったので、儀式の模様をテレビ中継で見た人が多かったみたい。でも今日の即位の儀は、宮殿で行われて、テレビ中継されることになっているものの、休日になるわけではないので、授業で見れない、と思っていた。でも、さすがクリウス。どうせみんな気になって授業どころではなくなるだろうから、ということで、講堂で一緒に見ることになった。
「凄いね、皇太子殿下の彼女だなんて」
こっそり若菜に囁かれて、急に不安になった。凄いのは私じゃないし、…それに、これまで以上に忙しくなってしまったら、私には会ってくれないかもしれない。…もう一週間も話していない時点で、すでに彼女とは言えなくなっているのかも…。
映像で見る希は正装が眩しいくらいキマっていて、昨日よりも穏やかな表情をしている。どこからどう見ても、非の打ち所のない皇太子殿下だ。もし私が彼を知らなくても、この人にならこの国を任せたいと思えるくらい凄いオーラを放っている。
希はどんどん立派になっていくのに、私はただの平凡な庶民。希が私なんかに魅力を感じてくれるなんて思えない、…素晴らしい人たちにばかり囲まれて生活しているんだもの。
あまりにも素敵な希を見てせいで、どんどん落ち込みながら教室に帰る途中、朝霧先輩に声をかけられた。
「沢渡ね、まだ気持ちに余裕がないから、プライベートの携帯電話は見ていないって言っていたよ。でもだからと言って、深雪ちゃんが落ち込む必要は全くないし」
「でも、私なんかにできることなんて、何もないですし…」
「何言ってるの。今は非常事態だけど、しばらくしたらそれも落ち着くから。メッセージをいっぱい送ってあげて」
「迷惑になりませんか?」
「とんでもない!深雪ちゃんからの応援が一番の薬になるよ。そして、彼のほうにも、深雪ちゃんを励ましてあげるように言っておくから」
そんな!…そ、そうですか?何て書いていいか分からないけど、後でまたメッセージを送ってみよう。