「おはようございます」
「うん、おはよう」
カーテンを開くボタンを押していた加藤は、驚いたように振り向いた。
「起きていらしたんですね。深雪さんにお願いされたのですか?」
「うん、そう」
「さすがですね。無理なさらず、どんどんお願いしたほうがいいですよ。…どうぞ、殿下」
ありがとう。ワゴンで運んできたコーヒーカップを加藤から受け取って、一口飲むと、ホッとした気分になった。確かに、このところ特に起きれていなくて、加藤を困らせているという自覚はあったけど、起きれないものはしょうがない。よって、カフェインを少しでも早く投入しようと考えた加藤は、ベッドルームにコーヒーを持ってくるようになった。…素晴らしい香りだ。
「そろそろ、お会いにならないのですか?」
「うん、会いたいよ。…今日の夜、ダメかな?」
「そろそろおっしゃることだろうと思いまして、いろいろと調整させていただきました。明日の夜でしたらお時間ができますよ」
そうか、よかった。国葬にお越しくださった外賓の方々への挨拶から、即位にあたっての取材、議会と、多忙を極めているけど、そこは加藤のこと、スケジュールをやりくりして時間を割いて深雪に会わせたほうが、仕事を乗り切るエネルギーになると踏んだのだろう。
「さすがだね」
「はい、殿下のことはよく存じ上げておりますので」
加藤は僕のことを「殿下」と呼ぶようになった。財務長官に就任したとき同様、これまでの呼び方を変えないようにと言ったのだけど、新しく部下が増えることもあり、初めが肝心だからと、即位の儀の後からはすっかり呼び方を変えてしまった。まだ呼び方には慣れないけれど、今はそう呼んでもらうことでしゃきっとするし、それはそれでいいのかもしれないと思うようになった。その肩書きにふさわしい人間になりたいな。
「では、朝食の支度ができておりますのでどうぞ」
「うん、ありがとう」
極端に朝が弱い僕と一緒に、目が覚めるまで一緒にコーヒーを飲みながら話をしてくれる加藤は、とても優秀な側近だ。今では、結城とはまた別の意味で、僕には欠かせない存在になっている。
それでは、今日も一日頑張りますか。