「何か落ち着いたな、お前。深雪ちゃんのおかげか」
仕事の合間に、結城が楽しそうに言った。…結城や加藤の作戦は見事に成功したわけだ。
「僕が取り乱している場合ではないって、よく分かった。今は深雪のほうが心配だよ。両殿下のことも、まだ受け止め切れていないようだし」
「それで、学校のことなんだが…」
あ!それ!!!
「陛下とは、できるだけ学校に行かせたいという意見で一致した。そんなに、あれもこれも急に変えなくていい。それから、先に言っておくが、必要とされていないだなんて思い込むなよ。お前にしかできないことをさせるというのが、王宮の統一見解だから」
…いつの間にそんな話になっていたんだ。
「もう、本人抜きでそういう議論をするの、やめてくれる?」
「でも、お前は学校に行きたい、深雪ちゃんに会いたい。…違ってないだろ?」
…はい、それは確かに間違っていませんが。
「それに、深雪ちゃんに会わせれば元気100倍になって帰ってくることは、昨日も立証済みだから、止める理由がない」
「そんなにはっきりと言い切らなくても。これじゃ、僕が単純バカみたいじゃないか」
「こういうときは、そうやってすぐに気分転換できるほうがいいんだよ。ここにいると、次から次へと問題が勃発するからな、ため込まれたら後で余計に面倒なことになる。それに、お前が即位してからの国民の注目度は、より高くなっている。新しいライフスタイルの提案のためにも、いろんな仕事をしてもらおうと思っているから、楽しみにしておいてくれ」
う~ん、そういうものかな?でも、響殿下は社交的で、公私ともにいろいろな人々と関わっていらした。僕はこの一週間で人に会いすぎて、人に酔いそうになっている。しかも部下が増えたことによる沢渡班の再編成も、まだ十分には機能しておらず、行き違いが起きたりしている。僕なんかまだまだだな。とりあえず、目の前のことをしっかりこなすことから始めないと。
「失礼いたします」
そんなとき、第一秘書の松本さんが執務室に入ってきて、書類の束をどっさりと置いていった。そして入れ替わり立ち替わり、人が入っていては、仕事を積み上げていく。
「沢渡、しっかり頑張れよ。それを早く片づけたら、深雪ちゃんに会える時間が増えるぞ」
「うるさいな」
…深雪で釣るなって。