今日で3年生が学校に来るのは最後なので、沢渡も学校に来て、兼古先輩、清水先輩、深雪ちゃん、村野さんとともに、学食で昼食をとることになった。
「演劇部に入部して本当によかったと思います。先輩方にたくさんのことを教えていただけて、充実した時を過ごすことができ、感謝してもし尽くせません」
「天下の皇太子殿下にそんなことを言われると、照れるな」
「もう、祐輔は。…こちらこそ、みんなのおかげで、大いにインスピレーションが刺激されて、全国大会で優勝できたことは一生忘れないわ。…それから、響殿下のおかげで、楽しいひとときを過ごせたことも忘れない」
そうですね。あの迎賓館での誕生日会は、本当に楽しかった。
「僕からも、演劇部での経験は、演奏する上での表現に活かせていると思います。自分では気づけなかった魅力を引き出していただいて、ありがとうございました」
「これまた、世界一のヴァイオリニストに言われると、照れるな」
「もう、祐輔は…。私たちも、朝霧くんの演奏を聴くのが大好きよ。これから、もっと素敵な演奏を聴かせてもらえるのを楽しみにしてるわ」
ありがとうございます。入部したのは、沢渡に誘われたからでたまたまだったけど、いろんな面で勉強になった。演奏を聴かせるというのももちろんだけど、演奏を魅せる必要もあって、その点については特に、参考になっている。
「ところで、兼古先輩は、受験のほう大丈夫なんですか?」
沢渡が聞くと、兼古先輩はにがーい顔になって、グッと睨みつけた。
「うるさいよ。俺なりに頑張ってるから、もう少し待ってろ」
「もちろん、そう願いたいです。僕はこれから、先輩の演技がたくさん見られるのを楽しみにしているんですから、お願いしますよ」
「任せとけって。その代わり、卒業式の後の打ち上げでは、女装して来いよ。先輩命令は絶対だからな!楽しませてくれよ」
はいっ?と一気に、沢渡の目が点になった。…女装って。
「分かりました。受けて立ちましょう。本気で惚れないでくださいよ」
…また、沢渡も何てことを。…う~ん、でも実は僕も見てみたかったりする(笑)。
でも、そうやって、時は刻々と移り変わっていくんだよね。もうすぐ3年生か。早いものだな。将来のことをきちんと考えないと。