今夜は、国賓をお迎えした陛下主催の晩餐会が行われており、殿下ももちろん出席なさっている。王宮の規定では、半年は喪に服すことになっており、殿下は落ち着いた色ながらも、テーマカラーであるブルーをポイントにあしらわれた、素敵なジャケットをお召しになっていて、女性陣の目を引いていらっしゃるようだ。
その一方で、私たち側近は、控えの間でご主人様たちの様子を伺いながら、牽制し合ったり、情報交換をしたり。仕官同士でも微妙に派閥があったり、逆に、ご主人様たちの仲が悪くても、仕官同士は仲がよかったりと、どの世界でも言えることだろうが、人付き合いは難しい。その中で、主催国の一員として、また殿下の公務が円滑に進むように、できるだけのことはしたい。
“沢渡殿下の側近を務めさせていただいております、加藤と申します。王子には、お楽しみいただけていますでしょうか?“
主賓の側近を務めていらっしゃるパリスさんとは初対面なので、やや緊張する。
“表情から伺う限りでは、おおむね満足されているご様子です。しかし、沢渡殿下と杯を交わせないことが、残念でいらっしゃるようです」
王子は30代前半、社交的で、お酒がお好きだということは事前に伺っていた。しかし、公の場で未成年の殿下が飲酒をすることは、法律的にというのは言うまでもなく、許されることではない。
“そこで、後ほどお部屋にお招きしたいと申していますが、応じていただけますか?”
これはもれなく、こっそり飲もう、という申し出ではないか!…いや、それだけでは済まないかもしれない。実は王子がバイセクシャルであるというのは、裏では有名な話で、もしかしたら見初められてしまったのかもしれない。もちろん殿下は、年齢的にも経験的にもお断りすることなどできないのだが、そうなる可能性についてはすでに想定済みであった。
“申し訳ありませんが、沢渡殿下はまだ未成年ですので、結城の同席をお許しいただけるのであれば、喜んでお伺いさせていただきます”
チッ、と明らかに嫌悪感をあらわにしたパリスさんは、会場の隅にいる結城さんに目をやった。結城さんは今も、保護者のように、沢渡殿下の様子に目を光らせていらっしゃる。…その結城さんの裏での実力は、パリスさんもご存じなのだろう。
“ですが、お二人の様子から拝見すると、ご本人同士は盛り上がっているようですよ。…ご本人同士が意気投合なさったのであれば、止められませんよね”
うっ。殿下、そこは絶対に受け入れてはなりません。…大丈夫でしょうか。心配で、殿下のピアスについているマイクからの音声に耳を傾ける。
“ご一緒したい気持ちは山々なのですが、私には厳しい監視役がついておりまして、まだ独り立ちさせていただけないのです。早く認めさせるためにも、同席させていただいてよろしいですか?”
殿下…。そのご様子なら、大丈夫そうですね。もちろん、結城さんも音声を聞いていらっしゃるので、何かあったら、すぐに駆けつけられるに違いない。
あらゆる方面から、殿下をお守りすること、それが私の務めである。