王宮は基本的に日曜は業務が休みで、宮殿の中の会議室等は電源が落とされている。…時間外労働を防ぐためである。しかし殿下にとっては、この機会こそが勉強時間、とばかりに、自室で根を詰めていらっしゃる。とはいえ、殿下からは、勉強のときにしてもらうことは何もないからと、部屋には来ないように言われているので、私は私の仕事をすることにする。
とりあえず、少しやり残したことがあったので、私の仕事部屋に行こうと、ターボリフトに乗り込み、殿下の執務室の片隅に出ると、続きの間にある沢渡班の作業場に灯りがついていた。しかも何やら、複数の人の気配がする。
「お疲れさまです。…結構お集まりですね」
そこには、殿下の第一秘書の松本さんを始め、しっかりと仕事モードの人間が何人も慌ただしく働いていた。これで殿下がいらっしゃれば、重要な会議ができるというものである。
「申し訳ありません。どうしても片づけておきたい事案がありまして…。まさか、殿下はいらっしゃいませんよね」
「殿下は、自室にいらっしゃるはずですが、時間外労働には気をつけてくださいよ。沢渡班全体の心証が悪くなりますから。…と言いつつ、私も来ている時点で何の説得力もありませんけどね」
「ですが、殿下も自室で作業をなさっているのでしょう?明日の準備を万全にしておかないと、合わせる顔がありません」
「呼びましたか?」
殿下!!!…秘書たち一同、すっかり固まってしまっている。
「みなさん、お揃いですね。実は私も、一人では片づけられない案件がありまして…。あと30分だけ、仕事をしましょう。そのあとは、完全に解散してください」
一気に部屋全体に緊張が走る。そして、殿下が席に着かれると、松本さんをお呼びになり、あれこれ質問なさっているご様子。そして、第二秘書、第三秘書が、次々と仕事を引き継ぎ、私は私で、部下となる側近とスケジュール管理について詰めて、殿下に確認していただく。
「もういいですか?後は明日以降にしましょう。休むときにはしっかり休んで、仕事の効率を上げることを心がけてください。ではお疲れさまでした」
殿下がおっしゃり、しかも、全員が退室するまでお待ちになっているとなると、一同、その場を離れるしかない。
「ほら、加藤も帰るんだよ」
「かく言う、殿下は残られるわけではありませんよね?」
申し上げると、一瞬、ん?という表情をなさり、笑って誤魔化された。
「殿下、帰りましょう。部屋までお送りします。結城さんにバレると大変ですよ」
殿下はこのあと、結城さんとの夕食会に参加されるご予定のはず。元々は毎週土曜日に行われていたが、土曜日は深雪さんと会う日になされたため、スライドさせて日曜日に行うことになったらしい。
「俺が何だって?」
…これはピンチ。いつの間にか、結城さんが仁王立ちになって、こちらを睨んでいらした。
「時間外労働は禁止だって言ってるだろ!時間内に終わらせるのも能力の内だ。…沢渡、行くぞ」
はい、と素直に腕を引かれていく殿下。
「加藤、お前も来るんだよ」
はい、そして私もお叱りをいただく…。沢渡さんは、昨夜から深雪さんと過ごされたはずなのに、お疲れがとれないご様子だ。このままでは仕事に支障を来す可能性もある。よくよく気をつけないと…。