嬉しい知らせが届いた。祐輔が大学に合格したのだ。
「おめでとう。これでやっと、スタートラインに立てるね」
“…祝福してくれるのか?”
その声は、まだ訝しげ。確かに、祐輔が、いわゆる芸能人になってしまうことは面白くないけど、沢渡くんや朝霧くんも、知名度を上げるためには、あらゆるコネを使うべきと言っていたから、考え直した。
かく言う私も、母が有名な作家なので、もし演出家として表舞台に出ることになったら、そのことでも注目されるのかもしれない。でも、有名になれるかどうかは運だとも、母が言っていた。何かのタイミングで、何もかもがうまく行くこともあれば、うまく行かないこともある。残念ながらすべての人が成功するわけではなく、努力したからと言ってすべてが報われるわけでもなく、世の中は不条理だ。だから手段を選んでいる暇はない、と。
「やる前から非難しなくてもよかったかな、って少し反省した。デビューするかどうかよりも、そこで成功するかどうかのほうが大切よね」
“それは言えてる。早速明日からレッスンが入ってるんだ。気持ちを切り替えないと“
あ…。
「お祝いさせてもらえないの?」
“明日?”
…うん。明日は、恋人たちが、プレゼント交換をするWhite Ribbon Dayなのに。
“…先を越されちゃったな。改めて、俺のほうから誘わせてくれない?俺も男だし”
「いや、その…。私としては、合格のお祝いをしてあげたいと思ったわけで…」
すると、あぁ、と大きなためいきが聞こえてきた。
“ゴメン、いろいろ心配かけて悪かったと思ってる。だから明日は、そういうのもひっくるめて、一緒に過ごしたい。レッスンは昼間だけで、夜は空いてるから”
「そう。…なら、ぜひ」
“素直でよろしい”
え?…あ、うん。まあいいことにしておこうかな。
“ただ、レッスンの都合で迎えには行けないから、○○で待ち合わせってことでもいい?”
「うん、分かった。しっかり頑張ってきてね」
“ありがとう”
そして電話を切る。声の様子だと、合格のことよりも、すでにその先のことで頭がいっぱいみたいだ。祐輔はどんな役者になるのかな?お父様には認めていただけるのかな?今後が楽しみなようで、心配なようで…。