深雪は、更にクッキーを焼いて持って来てくれた。
「このキッチンのオーブンレンジ、凄くいいものだから、今度はここで焼いてもいい?」
そうなのか?
「確かに、オーブンってボタンがあることは知っていたけど、使ったことないね」
「やっぱり。でも、作業をするにはちょっと狭いのよね、ここ。だから、下準備をして持って来て、ここで仕上げるって感じにしようかな?」
あー。料理をするということは全く学ばなかったので、キッチンも簡単なものしかないんだよね、僕の部屋は。
「僕の部屋のものは、好きに使ってくれていいよ。…こうして毎週来てくれると分かっていると、平日も頑張れる」
そして、ぎゅっと抱きしめると、そのまま離したくなくなってしまう。
「一緒にお風呂に入ろう。片時も離れたくないんだ」
「希…」
恥ずかしそうにうつむく深雪を連れて、一緒にお風呂に入る。…このお風呂も、もう少し広いといいのにな。いや、狭い分、密着できていいか。
「そうやって恥ずかしがると、こっちも意識してしまうものなんだよ。男心が分かってないな」
「そういうものなの?」
「そうだよ。今は単に、深雪と話をしたいだけだから。今週何があったか、話して」
と言いながらも、彼女を抱きしめる腕に力を込めるのだけど。
「あ、そうそう、高校生討論会なんだけど、会場に見に行けることになったよ。若菜の分も私が引き当てたの」
あ~!来週の火曜日、高校生討論会が行われる。その会場には、抽選で選ばれた人だけが入れることになっていたのだが、さすがにホストを務める僕の権限もあって、特別にクリウス枠を設けさせたのだった。それにしても、数的にはそれほど多くなかったはず。
「そうか。愛がなせる技だな」
「ね。ホントに、ズルとかしてないから」
ま、もし外れたと言われたら、特別に席を設けさせる予定だったけど、正々堂々と入ってきてくれるのは嬉しいことだ。
「じゃあ、俺も頑張らないとな~。イストの早川が、噛みついてきそうだし」
「見た目からして頭がよさそうで、近寄りがたい人だよね。…あ、ゴメン。希はスーパー頭がいい人だった」
「…そっか、それで今もなかなか近寄ってきてくれないんだ」
「違うよ。希の場合は、それだけじゃなくて…、凄くカッコイイから。…でも最近、希に抱きしめてもらうと、凄く落ち着くようになってきた。…見てるだけじゃ、嫌だなって思う」
深雪…。
「でも今は、お話をする時間なんだよね」
うっ…。思わずキスをしようかと思ったところ、深雪に先を越されてしまった。
「ヤバイ。俺、深雪に翻弄されてる…」
「え?まさか」
いやいや、無意識だったら余計に問題だろ!…ホントに、彼女といると、いろんな感情を味わわされて、飽きないな。
このままでは終わらせないから、覚悟していなさい。