いろいろと思うところはあるけれど、とりあえず進むべき道は見えてきた。我を通すのではなく、あくまでも演出家の要望に応えるスタイルで行けば、役者として成長できるだろうということだ。
もちろん、役者としてのポテンシャルがなければ元も子もないが、役者は脚本の中のキャラクターを具現化する器なのであって、変な自己主張はいらない。そして、そうあることが、大臣の息子、だったり、皇太子殿下の友人、であるという呪縛から解放されるということなのではないかと思う。
そう考えを改めたら、レッスンもうまくいった。演じているという実感が、持てるようになった。こんなに充実感を得られたのは初めてのことだ。
ということで、帰りがすっかり遅くなってしまった。事前にメッセージを送っておいたが、美智からの返信はない。もう帰って寝てるかな?と思って、部屋に帰ると、案の定、リビングのソファーで横になって寝ていた。
「ありがとう」
部屋が片付いていて、キッチンには食事の支度もしてある。これって、何て素晴らしいことなんだ。でも、少し気持ちが落ち着いたから、これからは出来るだけ自分でしようと思う。
そして、起こさないように抱き上げてベッドに運ぶと、夜中なので、消化によさそうなものだけ、とりあえずいただくことにする。いただきます。