今日から学校は期末試験か。相変わらず僕はまとめて受けさせてもらうので、今日は仕事。
体調はほぼ戻ったけど、まだちょっと体がだるい。最近怖いんだよな…晩餐会が。わが国では僕に彼女がいることは周知の事実だし、皇太子だし、学校や芸能界の人から積極的なアプローチを受けることはほとんどない。ただ確かな位を持っている人はフルに利用して強気で来られる、しかも僕は酒に弱い…ということで、いつも危機感を持たずにはいられない。
「どうした?浮かない顔だな」
メイクが終わり、鏡越しに結城が入ってくるのが見えた。僕が一週間も仕事を休んだ上にスケジュールの調整もしてもらったので、非常に迷惑をかけたはずなのだが、僕からのキスだけで疲れも消えていくなどと平気でのたまう、タフな人である。
「酒に強くなる方法を教えてよ、男として情けないんだ、もう」
「今日お越しのアンドレア王女も綺麗な方だからな、別に二人の間に何かがあってもみんな見て見ぬフリだ、安心しろ」
「そういう問題じゃないだろ」
国同士の利害関係に巻き込まれるなんてまっぴらだ。
「心配するなって。そんなブサイク顔のお前には誰も近づかないよ」
「ブサイクだ?」
あーますます、とおかしそうに僕を抱きしめるではなく首にしがみついて肩を震わせている。
「何だよそれ。あ~結城の前ではブサイクで結構、二度とキスしたりしないから」
「何だその口の聞き方は?まだまだ子どもだな、本当に。俺が思うに、イイ男とは、女性の扱いがうまいヤツのことを言うんじゃないかな?今のお前、試されてる時だと思うぞ、しっかり勉強しろ」
触れるか触れないかの素早いキスをして、右手を軽く振りながら結城は部屋を出て行った。…悔しいけどカッコイイんだよな。でも何処であんな技を覚えてきたのか?そして何処で使っているのか?いや…今は使ってないはずなんだよな。
「沢渡さん、お目にかかれて光栄です。お噂はかねがねお聞きしておりました」
「こちらこそ、お会いできるのを楽しみにしておりました」
王女の手を取って手の甲にキス。彼女は22歳、写真より格段にお美しい。水辺に咲く可憐な一輪の花、控え目で上品な印象はなかなか好感が持てる。話をしてみると読書好きで作家の話でいろいろ盛り上がったし、ピアノを弾くこと、お菓子作りが大好きなことなど、女の子らしいのがとてもかわいらしい。でもそんなメルヘンチックな生活はすぐ飽きるだろうと思いながらも、会話を弾ませていた。
「ごめんなさい、ちょっと休んでもいいかしら?」
この手の常套手段には何度か付き合ったことがある。男としてはほっておくわけにはいかず、水の入ったグラスを受け取って彼女を追いかける。
「ありがとう、沢渡さんって紳士ね。あなたの彼女が羨ましいわ」
「そうですか?アンドレアさんこそ、大切にしてくださる男性はたくさんいるんじゃないですか?」
「そうね、たくさんの方を紹介していただいたけど、みなさん、私とではなく私の名前と結婚したいのよ。私のことなんて誰も理解してくれない、だってつまらない女だもの、恋をしたこともないのよ」
そんな…、相当な箱入り娘ですね。こんなに綺麗で教養もあるのにもったいない。まさか教えて…なんてことは言わないだろうね。
「一つお願いしてもいい?街に出てみたいの、沢渡さんに案内していただけないかしら」
それは、デートしてくれと言うことですか?
「明日は学校に参りますので、夕方からでしたら…」
「あなたは仕事とプライベート、どちらを優先させるの?私と付き合ってくださいますよね」
おまけにわがままときたか…参ったねこれは。断れないでしょう。迷った挙句深雪には一言電話しておいた。