明日からの旅行に備えて、準備をしている。
「別に僻地に行くわけじゃないし、ちゃんとホテルに泊まるから、必要最低限のものでいいよ」
と、希からのメッセージには書いてあったけど、道中何をするのかとか、お菓子は持っていったほうがいいのかとか、ヘアアイロンはあったほうがいいのかとか、いろいろ心配になってしまう。
“足りなかったら買いに行けばいいだけのことだから、そんなに気にしなくていいよ”
そんな私の様子に呆れたのか、希が電話をかけてきてくれた。
「いや、だって、初めての希との旅行だし」
“俺は別に、深雪が来てくれればそれで十分。しかも今回は、お祝いされる側なんだから、何なら何も用意しなくてもいいくらいだよ”
そっか、私の誕生日だから。
“それなら、行き先を発表するよ。俺が生まれ育った町!俺も行くのは、10年ぶり!どこか観光したいところはある?”
え?そうなの?
希が生まれたのは、とある地方中枢都市。私のイメージでは、歴史の時間に習った記憶がある。
「私は行ったことがないから、初心者コースでお願いします」
“まぁ、あらかじめある程度の予定は組んでいるけど、その様子なら特に変更しなくてもよさそうだ。何よりも、一緒にいてほしいのは俺のほうだから、単純に、一緒にいてくれればそれでいい”
…希。以前、子どもの頃に招宮されて、家族とは離れて暮らしたせいで、子どもの頃のことはあまり覚えていないと言っていた。その記憶を埋める旅なのかな。
「わかった。じゃあ、明日待ってるね。おやすみなさい」
“うん、おやすみ”
ドキドキしちゃうな。