クリウスに春が訪れていた。
春休みでほんの少し来なかった間に随分と暖かくなり、花々も赤や黄色に花壇を彩っていた。冬生まれの僕としてはこれからの季節を思うと少しばかり憂鬱にならざるを得ないが、こんな穏やかな・・・思わず伸びをしたくなるような気候に加え、辺りには誰もいないという特殊な景色を無駄にすべきではないと、校門から生徒玄関までを加藤と共に歩くことにしたのだった。
「静かだね」
クリウスの広大な敷地のほとんどは、森と呼べるくらい自然のままの姿を残していて、一部は一般人も自由に出入りできる公園として整備されている。
今日は入学式の予行演習がある。
学園側の策略にはめられている僕は、生徒会長として挨拶をするようにとのありがたい呼び出しをいただいてしまった。もちろん在校生は不参加、そして式と今後の学生生活の打ち合わせのために、僕だけ、こんな時間から登校しているのである。辺りには鳥のさえずりが満ち、のどかな分余計にだるさを感じてしまう。
「こんな風に殿下と歩くのは、学校見学以来ですね。あの時は随分と不安がっていらっしゃいましたよ」
「そうだね、あれから加速度的に毎日が過ぎ去って、なんだかとても昔のことだったように思えるよ。でもこの景色を見ることが出来るのも最後かと思うと、感傷的な気分にもなるよね」
学生生活も最後の年を迎えた。初めから期限付きだったし分かってはいたけど、あまりに充実した毎日に名残惜しさを感じ、時にはこのまま時が止まればいいのにと思ってしまうこともある。見るものすべてが新鮮で最初の頃はなかなかなじめなかったけれど、演劇に楽しさを見出すことが出来たし、何より大切な人と出逢うことが出来た。最近は毎週土曜日にゆっくり会っているにしても、お互い高校生だし、その今しかない特権を楽しむには学校で会うことの方がポイントが高いと思う。多くの生徒に囲まれている中で不意に遭遇したりする時に交わす視線の駆け引きに、たまらなくスリルを感じるからだ。
「そうはおっしゃいますが、新しい年度の始まりではありませんか。終わりを考えるのはやめにしましょう。まだ1/3あるわけですし、一年は・・・」
「365日もあるんですよ、だろ」
最後の部分はユニゾンで。思わず微笑み合う。
「響殿下なら、そうおっしゃるだろうね」
「そうですね」
大好きな響殿下が悲しまれないように。・・・きっとこの道も歩かれたんだろうと思うと、中指のリングを握り締めずにはいられなくなる。
でも響殿下のために・・・と思うことはやめました。僕は僕自身のために、一日一日を大事に過ごしていきますから、見ていてくださいね。
・・・にしても、どうして僕だけこんな時間から登校しなきゃいけないんだ~。しかも男同士で!!!