「で、俺のこと心配してくれてたんだ」
「だって、公の場で希がキレたのって初めてじゃない。いつもほら、感情的にならないように気をつけてるって言ってたし」
「キレたって言うなよ、人聞きの悪い。指導だよ、あれは」
部活が長引いてしまい、終わったあとゆっくり話すことが出来なかった。昨日の夜のニュース番組では「沢渡殿下が新入生を一蹴」と報道されていたけど、どれも取り立てて扱ってはいなかった。
「深雪、指導することは大切だって思うよ。自分さえよければいいわけじゃない、自分が経験したことを後に受け継ぐ義務がある。それが社会の仕組みであって、何千年もそれが繰り返されてきたから歴史が出来て今があるんだよ。確かに俺は深雪が言うように、報道に関してナーバスになってる。でも今回のことはそれとは全く関係ない。式典で・・・しかも新入生のための式典でだよ、壇上の人の話を聞くという当たり前のことが出来ないなんて、逆にこっちが恥ずかしいよ。誰かがちゃんと教えてあげないと、かわいそうに、あの子たちはずっとあのままなんだよ。みんな社会の一員なんだから、その中で生きていくためには最低限のルールは守らなきゃいけない。そしてそのことは出来るだけ早く教えてあげないとね。お前もこれからは先輩なんだから、しっかり指導してあげなさい」
はい・・・。この私が教えてあげられることなんてあるのかな?
「何だよ、その頼りない返事は。こういうことは最初が肝心なんだぞ、ナメられたら終わりだ」
「でも私も、まだまだ教えてほしいことがいっぱいあるし」
「それはみんな同じだよ。俺だってこれからもずっと気分は学生でいると思う。世の中をすべて知り尽くすなんてこと不可能だからな。そして深雪からもいろんなことを教わってる」
「例えばどんな?」
「俺って結構嫉妬深い男なんだなって。・・・部室じゃなかったら、その場でアイツを締め上げてるところだったよ」
怖いってば。やっぱり、希だけは怒らせないほうがよさそう・・・。
「あ、ごめん、そろそろ・・・」
「うん、明日はいつも通り?」
「ああ、朝も、夜もいつも通りで。じゃあ、また明日な、おやすみ」
「おやすみ」
・・・また明日って響きが嬉しいな。