5/15 (月) 17:30 自信

体験入宮は僕だけではなく十数名とともに行われた。・・・けど、朝からショッキングなことばかりで、本当にやっていけるのかどうか不安になってしまう。

まずは一般国民には立ち入ることの出来ない宮殿。文字通りお城のような美しいたたずまいだけど、意外と一つの空間の面積は狭い。しかも一旦ターボリフトという乗り物に乗ってしまうと、自分がどこにいるのかまるで分からなくなる。僕は決して方向音痴ではないはずなんだけど。

そして結城さんから王宮の階級制度とその役割の説明を受けたあと、今春の新入宮者の研修模様を、一部は体験しながら見学。そのあといよいよ沢渡の・・・・いや殿下の仕事風景を拝見した。

金融関係の外国人顧問を招いて(詳しくは教えてくれなかったけど)の会議を、隣接する部屋から見ていたのだけど、当然すべて外国語。しかも専門用語だらけなんだろうな・・・と、途方に暮れてしまいそうになった。テレビでは見たことがあるけど、直接見るのは初めてな真剣かつ緊張顔で、電子ボードを使って説明したり、議論をしたり。

ただし外国語に関しては、今まで二ヶ国語以上を学ぶ機会をもらえなかっただけなんだから、その機会をちゃんともらえればいくらでもものにすることが出来るだろう。・・・沢渡は何ヶ国語話せると言っていただろうか?

でもそれだけではない。新入宮者の研修では、武道や作法なども入っていた。そっちのほうはかなり心配だな・・・。

夕方、僕だけは別室に呼ばれて待っていると、殿下がみえた。・・・仕事振りを拝見して、いつしか敬語も当然のように思えていた。

「今日一日どうだった?」

殿下は仕官に対しても丁寧語で話していらした。・・・だから、これは友達同士の会話ととっていいんだよな?

「お前のことを尊敬した」

「何だよ、気持ち悪いなあ」

もう僕が知っている沢渡に戻っていたけど、今度こそ本気で分かったから。ちょっとやそっとでは手の届かない、同じ高校生じゃなかったらこんな風に会話することも出来ない、とんでもなく偉い人なんだよな。

「最初はかなり大変だけど、慣れると、これ以上ないほど充実した毎日を過ごせる。・・・でもここでは、そんな弱気な態度を見せたら、それだけで負けだよ。典型的な実力至上主義社会だから、勝ち上がるためには何だってする人間ばかりだと思っていたほうがいい・・・ある意味意地の張り合いなんだよ。だから絶対弱みは見せないこと。そんな時に必要なものは自信だね。自分がしっかりしていれば惑わされることもない。そしてその自信を持つためには、努力と経験を積むしかないんだよ」

努力と経験・・・。やっぱり殿下のお言葉は重みが違う。でもまだどうしようもないじゃないか。これ以上遅れをとりたくない。まだ一年近くもあるのに・・・。

「今の僕に出来ることを、何かくれないかな?早く王宮の生活に慣れることができるように」

なるほどね、とコーヒーを一口飲んで考えている様子。

「でも、外の世界でしか出来ないこともあると思うんだよ。特に人間の根本であるはずの五感が、ここにいるとだんだん鈍くなる。今のうちに、研ぎ澄ませておいたほうがいいんじゃないかな?あと語学はやっぱり必要だから、少しでも勉強してみたら?」

沢渡は右ピアスにそっと触れて、いきなり話し出した。・・・凄い!SFの世界みたい!・・・程なく加藤さんが、第二公用語の学習キットをそっと置いて出て行かれた。

「・・・話は変わるんだけど、ピアスは絶対しなきゃいけないんだよな。痛くない?」

は?と吹き出して首をかしげる。右ピアスはID、左ピアスは地位を表すとは聞いたけど。

「右ピアスは結構痛いよ、軟骨を通しているからね。決意のほどを見る最初の儀式にもなっている。滅多にないけど、時々膿んで、大変なことになっている人もいるよ」

そういうこと言うなよ。

「覚悟してきてください」

ヒドイ。ここの人間はどうしてこんなにも容赦ないんだ?しかも俺のことは意に介さず、自分は立ち上がって帰る準備をしているし。

「今度またゆっくり話そうよ。時間がなくてゴメンね」

「あ、ああ。今日一日勉強になったよ。お忙しいところ、本当にありがとうございました」

「うん、今からデートだから」

・・・・・・。相変わらず、仕事にも遊びにも一生懸命。僕は不器用だからな。沢渡を見ていると信じられないことばかりだよ。

せめて次に会う時までには、挨拶くらいしっかり覚えてやる!・・・これいただけるってことだよな。裏返して値段を見て・・・ビックリ!

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