晩餐会でお召しになるスーツの仮縫い作業のために、宮殿へと赴いた。殿下は財務長官として実務をなさる時には一般的なスーツですが、皇太子として式典や晩餐会に出席なさる時は、エレガントにロングジャケットをお召しになる。男性ももっとおしゃれに行こう!というのが殿下と私との共通意見で、前衛的な私のデザインにも興味を示してくださる。何よりスタイルがよろしいので、実用性よりデザイン重視に作れるところが、私も楽しい。
「なかなかいいですね。似合わないのではないかと心配しましたけど」
いつも落ち着いた色をお召しになっているので、薄いオレンジを提案してみた。本当は赤などもお勧めしたいところですが。
「それからもう一つ」
かばんをガバッと開けてご覧に入れた。
「眼鏡を合わせてみてはいかがでしょうか。服が甘い印象ですので、クールな殿下らしさも引き合いに出したいと思いまして」
最近の殿下は特に小物に凝っていらっしゃるご様子だから、気に入っていただけるのではないかと思いますが、いかがでしょう?
「それはまた面白いかもしれませんね」
一つ手にとってかけてくださると、女性仕官から一様にため息が漏れた。ただでさえシャープなお顔立ちがよりクリアになって、ツクリモノみたいに綺麗なお姿。
「お前、怖いよ。それ」
突然いらした結城さんがしげしげと眺めて、なにやら耳元で囁かれた。なるほどね~と納得される殿下。
「これでお願いします」
殿下がおっしゃって、結城さんはまた風のように去って行かれた。・・・相変わらず仲がおよろしいことで。
「かしこまりました」
・・・本当は、気になってしょうがないのですが。