5/16 (火) 21:00 内緒ごと

晩餐会でお召しになるスーツの仮縫い作業のために、宮殿へと赴いた。殿下は財務長官として実務をなさる時には一般的なスーツですが、皇太子として式典や晩餐会に出席なさる時は、エレガントにロングジャケットをお召しになる。男性ももっとおしゃれに行こう!というのが殿下と私との共通意見で、前衛的な私のデザインにも興味を示してくださる。何よりスタイルがよろしいので、実用性よりデザイン重視に作れるところが、私も楽しい。

「なかなかいいですね。似合わないのではないかと心配しましたけど」

いつも落ち着いた色をお召しになっているので、薄いオレンジを提案してみた。本当は赤などもお勧めしたいところですが。

「それからもう一つ」

かばんをガバッと開けてご覧に入れた。

「眼鏡を合わせてみてはいかがでしょうか。服が甘い印象ですので、クールな殿下らしさも引き合いに出したいと思いまして」

最近の殿下は特に小物に凝っていらっしゃるご様子だから、気に入っていただけるのではないかと思いますが、いかがでしょう?

「それはまた面白いかもしれませんね」

一つ手にとってかけてくださると、女性仕官から一様にため息が漏れた。ただでさえシャープなお顔立ちがよりクリアになって、ツクリモノみたいに綺麗なお姿。

「お前、怖いよ。それ」

突然いらした結城さんがしげしげと眺めて、なにやら耳元で囁かれた。なるほどね~と納得される殿下。

「これでお願いします」

殿下がおっしゃって、結城さんはまた風のように去って行かれた。・・・相変わらず仲がおよろしいことで。

「かしこまりました」

・・・本当は、気になってしょうがないのですが。

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