いつ言おうか迷っていた。でも今、初めてのドラマの撮影が佳境に入っているので、とにかく早めに言ってしまいたかった。
「もしもし、俺」
「今日はもう終わったの?」
「うん・・・今から会えないかな?」
「え?今から?課題に取り掛かっている最中なんだけど・・・。今日じゃないとダメ?」
うん、今日じゃないと・・・。しかも明日も朝が早いんだよな。
「電話で言ってもいい?聞いてほしいことがあるんだけど」
・・・うん。彼女は何かを察したのだろうか、返ってきた声は随分小さくなっていた。
「・・・仕事に専念したいんだ。今が一番大事だってことは、美智も分かってくれているよな?立派な一人前の役者になるまで・・・しばらく、会わないでおこう」
・・・返ってこない。
「今の俺はかなり不安定だから、美智を巻き込んでずるずる引っ張るより、この際すっぱり割り切ったほうがいいと思うんだ。しばらくすれば新しい環境にも慣れると思うから、それまで、な」
言い出してしまえば、スラスラと言葉が口をついて出てくる。
これは提案ではない、決定事項。決心はもう鈍ることなんてなかった。そして不思議なことに、これが聞き入れられないはずがないと、たかをくくっている自分がいた。自信云々ではない。こうすることが最善の策であることは誰の目にも明らか、一番の理解者でいてくれている美智に分からないはずはないと思うから。
「・・・いつか言い出すだろうって思ってたよ。頑張ってね」
「うん、ありがとう」
「・・・祐輔が一人前の役者になることは、私の夢でもあるから」
・・・それじゃ、と、特別な言葉は交わさないで、通話を終えた。・・・あまりに何も感じなさ過ぎると、自分のことが一瞬怖くなってしまったくらいだ。でもそれだけ集中している証拠でもある、ということだろ?