11/3 (木) 23:30 2通のメール

明日の遠足は現地集合ながら参加できることになりホッとしていたら、清水先輩と兼古先輩からそれぞれメールが届いていた。先輩方とは今では学食でたまに顔を合わせるくらい。受験勉強が大変だろうから、あまり邪魔しないように・・・と思っていたのだけど、それどころではなかったみたいで。

“祐輔ったら、いつの間にか俳優事務所に所属して、ドラマのオーディションを受けたって言うのよ。しかも、最終選考に残るまで一言も言わなかったの!許せないでしょ!・・・折角沢渡くんも来てくれて、楽しい遠足になるかと思っていたのに、ガッカリ。でも最後の遠足でしょ?このままじゃ気分がよくないと思うのよ。・・・沢渡くん、祐輔に一言言ってくれない?沢渡くんの言葉なら聞くと思うから”

はぁ!?またも二人のケンカに僕が巻き込まれてしまったわけか。そうか、兼古先輩はオーディションの最終選考にまで残ったんだ!それは喜ばしいと思うけど、清水先輩はどうしてこんなに怒っているのかな?・・・続いて兼古先輩からのメールを開く。

“俺としては実力を試したかった、そしてその上で将来のことを考えようと思ったんだ。でも恥ずかしいから、誰にも相談せずにオーディションを受けた。美智は俺が黙ってそうしたことに対して怒っているし、親父に至っては未だに話せていない、この二つが今の大きな悩みだ。沢渡、二人を納得させるために少し力を貸してくれないかな?頼むよ”

参ったな。先輩たちのケンカは二人で、家族の問題は家族の間で解決してほしいと思うけど、僕の意見は伝えておきたい。僕はぜひとも役者を目指してもらいたいと思っている。清水先輩も兼古先輩の演技力は高く評価していたはずなのに、何が気に入らないのかな?また、それで兼古先輩が進学を諦めるようなことになると、大臣が黙ったままではいらっしゃらないだろう。

でも僕が一人であれこれ推測するより前に、それぞれの意見を聞いておかなくては。ただ、時間が時間なだけに・・・、いや、兼古先輩は夜型だから大丈夫か。

“悪いな、忙しいのに。俺としては美智がそこまで怒るとは思ってなかったから、参ってて”

聞くと、清水先輩は、舞台役者ならともかく、テレビに出るようになると、親の七光りだとか僕の友人であるとか、そういう話題性ばかりが先行してしまって実力を見てもらえないのではないかということを、心配しているそうだ。

“でも、きっかけは何だっていいんだ。今はとにかく、俺の演技に対する評価がほしい。俺はまだ自分の実力がどれほどのものなのかをよく知らないから、若い今のうちに試したいと思って。・・・あ、もちろん、沢渡が迷惑でなければの話だけど”

「僕のことは全然気にしないでください。僕は先輩を応援していますよ。だって先輩の演技がこれからも、しかもテレビで見られたら、嬉しいじゃないですか!」

“そうか、ありがとう、心強いよ。でも俺は誰が何と言おうと、最終オーディションは絶対受けるつもりだから”

・・・兼古先輩が本気になってる。だったら、僕も協力しないわけにはいかないかな?

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