今日くらいはお宅にお邪魔してもいいだろうと思って、仕事帰りに深雪の家に寄った。Pink Ribbon Dayは、男性が女性に贈り物をする日。イベントに恋人らしいことを僕のほうからするのは初めてだ。
ドアを開けるなりペットのゆうこちゃんにすり寄られた僕に、お父さまは驚いていらした。どうやら、家族以外にはなかなか懐かないらしい。
「開けていい?」
「うん、どうぞ」
今ゆうこちゃんは、僕の膝の上で満足そうに撫でられている。この子が殿下にだけは何故か激しく吠えるというのが未だに信じられない。
「うわ~、綺麗。ちょっとつけてみるね」
プレゼントしたのは、小さく揺れる感じがかわいいピアス。やっぱり恋人としては何かアクセサリーを贈りたいというのがまずあったのだけど、まだ気軽なもののほうがいいと思ったので、ピアスにしてみた。
「ゴメン、こんな普段着には似合わないね。今度デートするときに楽しみにしてて」
「別に、学校に着けてくればいいじゃないか。制服には合うと思うよ」
でも・・・と、言い淀む深雪。
「大丈夫だって、きっと明日はみんな、これ見よがしにプレゼントされたものを身につけてくる。だから深雪もアピールして。明日俺は学校に行けないから、俺の代わりに俺の存在を示しておいてよ」
「そこまで自信過剰じゃないよ。あんまり周囲の人の気持ちを逆撫でしないようにしようって言ったじゃない」
「でも、遠慮しすぎることはない、とも言っただろ。普通のカップルがすることを俺たちもする、ただそれだけ」
おいで、と深雪を呼ぼうとして、まだゆうこちゃんが膝の上にいることに気がついた。
「ちょっと、降りててくれるかな?」
そして脇に下ろそうとしたら、指をかぷっと噛まれた。・・・イテテ。
「うわ~、ごめんなさい。・・・コラ、ゆうこ。おとなしくしていないなら追い出すわよ」
くぅ~ん、と悲しい鳴き声を上げながら、自分のケージへと戻っていくゆうこちゃん。
「ホントにごめんなさい、ケガしてない?」
「痛かった。・・・おわびに、それつけててくれる?」
「・・・嫌だ、絶対嘘だもん」
・・・しっかり反論するようになってきたな。だったら、正攻法でいくか。
「純粋に似合ってるからつけてほしいなって思っただけで・・・気に入らないって言うんならしょうがないけど・・・」
「ううん、とっても気に入ってる。・・・ホントはみんなに自慢したいくらい」
ならよかった。・・・優しく抱きしめてキス。・・・やっぱり深雪には優しくしたほうが気に入られるな。
「でもこの間の遠足のときにも時計を買ってもらったし、贅沢すぎない?」
「この間は、あの時計を見た瞬間に似合う!って思ってしまったんだ。・・・別に贅沢じゃないよ。普段なかなか会えない時間に比べれば、まだ足りないくらいだ」
「ねえ、金曜日の部活に来れないの?発表の日なんだけど」
ああ、深雪と朝霧の・・・って、何故ここで部活の話?でも深雪の演技は見たい。
「行けるようにするよ」
舞台で深雪と恋人同士の役を演じるのは、夢のまた夢かな・・・。