11/29 (火) 7:40 ヘアメイクの仕事

朝の沢渡さんは少ない時間に多くのことをこなしていらっしゃるので、できるだけ妨げないように努めている。

「おはようございます」

「おはよう」

私が沢渡さんのお部屋に伺うときには大体、加藤さんと秘書の松本さん、給仕する仕官がいる状態で、沢渡さんはパジャマ姿で歯を磨かれた後に登場される。・・・よかった、今日はスッキリした顔をなさっている。でも時々は、いかにも寝起きといった様子で近づきがたいオーラを放っていらして、緊張が高まる。

「失礼いたします」

今日はこのまま学校に行かれるので、スキンケアと簡単なメイク、そして沢渡さんのトレードマークでもある長い黒髪のセット。これが、仕事に行かれる場合だと、事前にスタイリストと打ち合わせておいて、トータルバランスを考えたメイクやヘアアレンジを施す作業に変わる。

お肌の調子はまずまずといったところ。乾燥しやすい肌質なので、夜特別なケアをさせていただくこともあるが、この年頃の男性としては避けては通れないニキビはあまりおできにならないので、助かっている。

そして次なるポイントとしては、クールな瞳。切れ長で二重まぶた。眼力には定評あり。学校に行かれるときにはさすがにアイメイクまではしないけれど、アイラインは入れておく。そして、それに合わせて知的な印象を与える眉毛。沢渡さんの目元にはインパクトがあるので、ここは特に気を遣って、手を施す。・・・よし。

この間沢渡さんはいつも目を閉じていらして、松本さんがお伝えする世界のニュースや伝達事項について、いろいろと意見を交わしていらっしゃる。・・・そのお顔立ちの美しいことと言ったら!目を閉じていらっしゃるのでまじまじと拝見できるけれど、開けていらっしゃるとドキドキして手が震えそうになる。沢渡さんに付かせていただいてからしばらく経つけれど、未だに慣れなくて困る。

次は髪にアイロンをかける。私が初めて沢渡さんにお目にかかったときにはすでに背中の真ん中辺りまでの長髪でいらしたので、短くされるとどうなるのかは想像がつかないし、また短くされるおつもりも全くないらしい。普段から癖がつきにくくサラサラで、痛みもあまり見られず非常に健康な髪質。毎日のお手入れはシャンプーとコンディショナーで、週に一度は念入りなトリートメントとカットを行っている。

しかし沢渡さんがヘアメイクについて注文を出されたことはなく、いつも任せていただいている。仕事では自己主張することばかりだから、委ねてみる部分があってもいいのだと仰っている。

「終わりました」

「ありがとう」

この笑顔を見られると、緊張から解き放たれる。

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