12/5 (月) 12:30 学食での密談

来週から試験なのだけど、同じくしてもう一つ大きななイベントがある。それは17日の希の誕生日。

「ゴメンナサイね、ギリギリになって。それから朝霧くん、両殿下にもお渡ししてくれる?」

「分かりました。殿下がとても楽しみになさっていましたよ」

実は、希に内緒でサプライズ企画を催すことになっている。発案者は清水先輩で、当初は内輪でビデオドラマを撮影したいということだったそうなのだけど、ふとしたときに殿下に相談したら事が大きくなり、その舞台が何と宮殿の迎賓館になってしまったとのこと!

「そして深雪ちゃん、今回は責任重大よ。カメラが回っていないところでも、役になりきってね」

渡された台本はごくごく薄い物だった。迎賓館で誕生パーティーを開くために集まるのだけど、私は何者かに拉致されてしまう。そして後に発見されたときには記憶をなくしている、という設定しか書かれていない。そう、このドラマは私たちがみんな実名で登場していて、あくまでも普段の延長という感じだから、決められたセリフはない。だから、話をつなげていくためには、私が記憶喪失の演技をずっと続けなければならないというわけ。

「どのくらい続けたらいいですか?」

「それは沢渡くんによるわね。沢渡くんのことだから、あの手この手で深雪ちゃんにアプローチすると思うわよ。でもできれば、当日の朝までは何とか持ちこたえてほしい」

「アイツなら多分・・・、思い出せないのなら、もう一度好きになってくれればいい、とか言うんだよ、きっと」

兼古先輩!・・・そんな、恥ずかしいですよ。しかもビデオドラマになるというのに。

「祐輔、からかわないの。いつ記憶が戻るのかは、深雪ちゃんの判断に任せるわ。場合によっては戻らないままのほうがいいこともあるかもしれないけど、それでもいいわ。あくまでも自然の流れに任せてくれればいいけど、記憶をすべてなくしてしまったんだっていう、暗示をかけることだけは忘れないで」

はい。・・・希との素敵な思い出を忘れたくなんかない。忘れてしまうことなんてできるかな?希の存在は私の中ではあまりにも大きくなりすぎていて、その部分を否定したら私自身をも否定することになってしまう気がする。でもこれはあくまでもお芝居だから、たとえ何があったとしても、うまくいったら後で希が抱きしめてくれるだろうから、思いっきり演じるしかない。できるかな・・・ではなく、やってみせなければ!

「お稽古はしてくれないんですか?」

「ゴメンね、祐輔はまだ受験が残っているし、朝霧くんも相変わらずな感じでしょ?そもそも沢渡くんがどんな反応を示しそうなのかは、深雪ちゃんが一番よく知っているわけだから、イメージトレーニングをしてくれればそれで十分よ」

「お前な、一言余計だって。・・・でも、深雪ちゃんなら大丈夫。うまくいくよ」

はい・・・頑張ります。あ、その前に、私もテスト勉強をしなければ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です