12/18 (日) 16:00 孤島での誕生パーティー2

-シーン11、朝-

深雪:希、起きて。9時から朝食だって。

沢渡:ああ?…今、何時?

深雪:8時半よ、…おはよう。

もう8時半か…よく寝たな。あまりに気持ちよくて、もう少し眠っていたい気分。

深雪:ねえ、ねえ、おはようって。(頬にキスをする)

沢渡:(グッと頭を抱き寄せて)おはよう…の前にもう一回キス。

いいね、朝は苦手だけど、こんな朝なら目覚めもいいね。一日頑張れそうだもん。

深雪:ねえ希、昨日渡しそびれたけど、プレゼントがあるの。

とりあえず起き上がってローブを羽織り、その箱を受け取る。中から現れたのはイルカのぬいぐるみ!

深雪:あ~笑ったでしょ、これね、ただのぬいぐるみじゃないのよ。このスイッチを入れると海の香りとα波を引き出す波の音がしてよく眠れるのよ。希が朝起きれないのは夜早く寝ないからでしょ、もっとゆっくりしてほしいなって思ったから。

沢渡:そうかありがとう。ベッドに置いておくよ、深雪の代わりだと思って。

確かにかわいいね。僕のシンプルな部屋を乱さない程度のイルカ。そう、ここ迎賓館だといつもよく眠れるんだよね。海に抱かれている気がするって言うか、直接的には陽が差し込まないからカーテンを閉めない…。これだと宮殿でも眠れるかな?と言うか早く寝ようというは気になるね。

すっかり御機嫌で手をつなぎ二人でリビングへ。

沢渡&深雪:おはようございます。

兼古:おはよう…って、深雪ちゃん!

深雪:ご心配をおかけしました、少しずつですけど、戻ってきたみたいです。清水先輩、昨夜はありがとうございました。

清水:いえ、よかったわね。そうだ、プレゼント何だったの?

深雪:…ちょっと恥ずかしいので、内緒です。

朝霧:僕も聞きたい。教えてよ。

沢渡:まあ、僕の部屋に来れば分かることだから。…でも結城だけには内緒な、あとで面倒なことになるから…。

結城:誰が面倒だって?

もう、いきなり現れないでよ。

結城:深雪ちゃん、元に戻ったみたいでよかった。心配していたんだよ。

そっと優しく抱きしめて、

結城:沢渡、改めて誕生日おめでとう。きっと忘れられない日になっただろう。そうだ、報告することがあるんだが、南は薬で操られていたことが分かった。やってしまったことは仕方ないが、処分はどうしてほしい?

沢渡:僕達のことは何もなかったことにしてくれていい。殿下が悲しまれる様子は拝見したくないから、できるだけ軽くしてあげてほしい。

結城:そうか、分かった。…じゃあ今日は予定通り15時からパーティーだから、みんなも楽しんでいってね。

去り際に「プレゼント楽しみにしとけよ」と耳元で囁いて、首筋に音を立ててキスしていった。…ほら面倒なことをわざわざする。

殿下:遅くなってごめんね、おはよう。

舞:おはようございます。

殿下:沢渡くんに深雪ちゃん、大変なことになってごめんね。

沢渡:殿下、もう結構です、殿下のほうが苦しまれたと思いますから…。僕達はとても素敵な夜を過ごすことが出来ました。

殿下:それならよかった。深雪ちゃんの様子を見る限り、僕も安心して良さそうだね。さあ、みんな朝食の前に改めていくよ。さん、はい。

一同:お誕生日おめでとう。

クラッカーが鳴り拍手が沸き起こる。

沢渡:ありがとうございます。みなさんのおかげで今までで一番素敵な誕生日を迎えることが出来ました。これからも各諸先輩方に近づけるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

殿下:沢渡くん、今日は主役なんだから無礼講だよ。さあ、みんなも召し上がって。

いや、本当に嬉しい、今日まで生きてきて本当によかったと思った。その前に、両親に産んでくれたことを感謝しなきゃ、あとで電話しよう。みんなの気持ちがとても温かくて、こんなに幸せでいいのかなって思う。HPでもお礼の言葉を伝えなきゃ。

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「はいカット。みなさんお疲れ様でした。拍手」

再び拍手が沸き起こって、カメラマンの木村さんが一礼して、リビングから出て行った。

そうだよ、これは架空の世界だったんだよ、殺人事件も記憶喪失も作りもの…。でもいつからか本当に入り込んで、カメラを全く気にしてなかった…。

「沢渡くんどうだった?感想は?」

「いや、急に言われても…。僕は全然演技しなかったんですよ」

「気になるな~、昨夜何があったのか?」

「僕も気になる!これから編集してパーティーで見るのが楽しみだね」

「うわ、それはやめましょう。かなりヤバイですよ」

ほら、深雪がうつむいて赤くなってるでしょ。

「今回は深雪ちゃんが一番大変だったからね、よく頑張ったわ。お疲れ様」

「お疲れ様でした。…見るの恥ずかしい」

「深雪は凄かったよ。本気で記憶をなくしたと思った」

「沢渡くん、ケガは大丈夫かい?ちょっとやりすぎたみたいだ、後でもう一度医療室に行くんだよ」

まだ少し手が痛いからと片手で食事をしているが、本当はそんな理由からじゃない。右手で深雪と手をつないでいる。途中辛かったけど、とても幸せな気分。今日はみんなも大目に見てくれるしね。

一応朝食後医療室には行ったけど、そんなに腫れているわけでもなし、痛みもほとんどないので、二人で作業用通路へ散歩しに行くことにした。ゆっくり話もしたかったしね。

「よかった深雪が帰ってきて。もうドキドキしっぱなしだったよ」

「それは私もよ。一応いつ思い出してもいいってことだったので、最初に自分に暗示をかけたのね、もう何も分からない、誰も知らないって。でも希があんまり辛そうな瞳で見るから気持ちがグラグラしてきて、あの一言が決定的だったね。…あの言葉には相当な思い出があるから」

希って呼べよ、じゃないと口聞いてやらない…。

仕事のときは、年上の人からでも散々敬語で話し掛けられて、それはそれで当然なんだけど、学校でみんなが普通に話してくれるのが凄く嬉しいんだよ。深雪は後輩だけど恋人だから特別。しかも希って呼び方をするのは、今では家族以外誰もいないし。

「それに前から思ってたんだけど、希って基本的に正しい言葉を使うじゃない?でもだんだん普通の人っぽくなってきた。・・・俺って言うとき、ドキドキする」

深雪と付き合うようになってから、自然と出てくるようになったんだよね。

「俺って言葉に憧れてたよ。結城とか、兼古先輩とかやっぱりカッコイイもん。でも今までは、似合わないと思ってた。…深雪の前では男らしさをアピールしたいのかな?」

「希は素敵だよ。いつだってカッコイイよ…大好きだよ」

僕の腕にぎゅっとしがみついて見上げてくる…何てかわいいんだ。ますます守ってあげたくなるじゃないか。…こんなに誰かを愛しいと思ったことは今までなかった。何もかも望めば与えられてきた僕が初めて、何かしてあげたい、しなければならないと心から思った人だから。時として壊れそうで失うんじゃないかという恐怖に苛まれるけれど、彼女は悲しませたくない。僕にできることはすべてしてあげたいんだ、愛しているから…。

その後行われたパーティーで、ビデオドラマが上演され(朝のシーンは本気でカメラの存在を忘れていてヤバかった…)、スペシャルゲストの南さんと死体役の仕官が花束を持って登場した時は、もう大フィーバー。大変な役でお疲れ様でした。

殿下と舞さんからはお二人で焼いたというケーキが、兼古先輩と清水先輩からは演劇部で今までに撮った写真をまとめたアルバムが、そして朝霧からは昨年に引き続いて曲をプレゼントされた。タイトルは「やすらぎ」舞さんがピアノを弾いてくださって、その名の通り優しく木漏れ日に包まれているような温かい旋律だった。深雪がそっとハンカチを差し出してくれるまで、涙が流れていたことに気づかないほど、朝霧のバイオリンは心を揺さぶり、思いがこもっていた…。

「僕はたまたまこの時代のこの場所に生を受けて、みなさんに逢えて今まで歩んでこれたことを、とても幸せに思います。歳を重ねるごとに少しずつ大切なものが増えていき、僕はそれらを守るために、もっともっと大きくならなければならないと改めて思いました。未熟な僕を育ててくださったみなさん、そして何より僕を産んでくれた両親に心から感謝します。今日は本当にありがとうございました」

・・・結城からのプレゼントはまだ内緒。

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