さすがの貴くんも、随分とのんびりしているみたい。今まで相当忙しかったから、貴くんにものんびりする権利はあるし、それ以上にのんびりしたいと思うほど疲れていたみたい。こうやって隣で微笑んでくれているのを見ると、新婚旅行先の選択は正解だったのだと思う。
「今日は何する?」
それでも、朝わりと早めに起きた貴くんは、ささっと朝食を作ってくれて、二人でいただいているところ。
「まずはお散歩しに行こう。そして何か見つかったら、それはそのときに考えるとして」
「いいね、そういう行き当たりばったりな行動って、いつもはできないからね。今日の予定は散歩で決定」
幸い、今日はいいお天気だし、気持ちよさそう。
防寒対策をしっかりした私たちは、手をつないで公園へ出かけた。まだ街の人はバカンスに出かけているのか、辺りは閑散としていて、お店も閉まっているところが多い。だから、都会での休暇は穴場だったと思う。
「誰もいないね」
「ホントにいないね。こんなにも人がいないこの街を見たのは初めてだよ。二人占めだね」
貴くんは両手を広げてくるっと一回転して見せた。…素直だなぁ~。今回の旅が始まって気づいたことだけど、貴くんはいつもの減らず口は封印して、ただただ私と過ごす時間を大切にしてくれている。でも指摘したら最後、いつもの調子に戻ってしまいそうなので、そのことには絶対触れないようにしている。
「この街にはどんな思い出があるの?」
「そうだね、昔2年くらい住んだことがあるよ。でも、最初は言葉が全然分からなくて、凄く苦労した。それで悔しくて、いつも人混みの中に行っては、他の人の会話に耳を傾けたり、人と話したりしていたよ。だから、こんなに人気のないこの街を見るのは凄く新鮮なわけ」
そんなことがあったんだぁ~。貴くんはなかなか自分のことを話してくれないから、そういう話を聞けるのはとても新鮮。
「貴くんってどんな子どもだったの?」
「う~ん、まあ、今でもそんなに変わっていないよ、負けず嫌いなところと、楽しいことが好きなところは」
わ、貴くんってそんな風に自己評価しているんだ。いつも飄々としている感じだけど、陰で凄く努力しているに違いないとは思っていた。しかも努力の様子を私にさえなかなか見せてくれない。そのせいで、部屋に帰ってくるのが遅くなって、一緒にいる時間が短くなっているのは残念だけど、私がいても邪魔になるだけだろうから、言わないほうがいいんだろうな。