ミュージカルを見に行って、そのあと飲みながら、感想を語り合った。そして今もその旋律が耳に残っていて、思わず口ずさんでしまう。
「ねえ、私のために歌ってくれる?」
「いいよ」
そして僕は、ミュージカルの役者のごとく、ひざまずいて、彼女の手を取り歌う。
「沢渡さんのお誕生日のときの劇は楽しかったね。貴くんも、絶対役者に向いていると思う」
いやいや。僕は普段から猫かぶりだから、これ以上演じていたくないんだよ。今もこうして舞のために歌った曲は、僕の心境に重なる部分が多かったので、心を込めて歌うことができたわけで。
「僕は、舞の前では素直な自分でいたいんだけど、こんな僕じゃダメかな?」
言うと、彼女は焦ったように手を握ってきた。
「ダメなワケないじゃない。…そうよね、この旅行で貴くんが素を見せようとしてくれていたことは分かっていたのに、水を差すようなことを言ってごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいよ。いつも素直じゃない、僕のほうが悪いんだから。…こんなに愛しているのに、伝え切れていなくてゴメンね」
舞を抱き寄せ、甘い口づけを交わす。
「貴くんの気持ちは知っているわよ」
「ほら、舞ももっと素直になってよ。…物分かりのいい舞は卒業して」
彼女は少し顔を赤らめると、恥ずかしそうに目を閉じた。
「何してほしい?」
「そういうこと聞く?」
「僕は、もっと舞を幸せにしてあげたいんだ。僕のすべてを捧げたい。もっともっと愛してあげたい。だから言って。もっと欲張りになっていいんだよ」
「そんな…、私には贅沢すぎるよ。今、貴くんを独り占めできているだけで幸せなのに…」
満足するレベルが低いんだね。それは僕が甘やかしてこなかったからだ。
「二人きりのときは、わがままになって。君のおかげで、今の僕がある。その感謝を全然伝え切れていない…」
「やだ…。貴くん、余裕ありすぎ…。ずるい…。早く来て…」
崩れ落ちそうになっている身体を抱き上げて、ベッドに押し倒す。…恥じらう舞がかわいい。今夜はとことんまで愛し合いたい。大好きな舞と一つになりたい。
本能の赴くままに…。このまますべてが終わってしまえばいい…。