大胆な貴くんに翻弄されっぱなしの私は、面と向かって話をしているだけで何となく気恥ずかしくなってくる。
「舞がそんなにシャイだなんて知らなかったよ」
そうやって私の頬に手を添えてくる様子も、本当の王子様みたいで…、というか、本当にこの国を継ぐ予定の皇太子殿下なわけだけど、今更ながら素敵すぎて戸惑ってしまうというか。
「もう、貴くん、カッコよすぎでしょ。…今頃になって自覚したよ」
「ひどいな。今まで知らなかったの?」
いつもはまとめている髪を解いて、サラサラとなびかせている様子は、殿下とは全く異なっていて…。でもそれで気づいた。いつも仕事人間の貴くんが、全く仕事をしている様子がない。普段から、私といるときは仕事を持ち込まない主義だけど、それは裏を返せば、一緒にいないときは仕事のことだけを考えているということなのだけど、この旅行中、まさしく四六時中一緒にいるけど、ニュースも、タブレットでさえも全く見ていない。夜もよく眠れているみたいだし。でもだからと言って、指摘したらまた不穏なムードになってしまうから、絶対言わないけど。
…まさか、この間の夢のことが、本当に起こると思ってる?
「ごめん、ちょっとお願いがあるんだけど」
部屋にかかってきた電話に出ていた貴くんが、申し訳なさそうに言う。
「アイツからの連絡攻撃に耐えきれなくなってね。…明日、会ってくれる?」
貴くんがアイツ、というのはヘンケル殿下しかいない。やっぱり、殿下が私たちの旅行を知らないわけではなく、私のほうにも何度かメールが届いていたのだけど、貴くんが無視するようにと言うから、そうしてきた。でも、その貴くんが殿下に会おうと言うなんて…。
もしかして、これが最後だと思ってる?
「私は別に構わないけど、会いたくないって言ったのは貴くんのほうじゃなかった?」
あくまでも明るく聞いてみたけど、貴くんの返事は冴えない。
「そんなに思い詰めないでよ。…ねえ、折角のお休みだし、親友に会うのは特別なことでも何でもないでしょ?」
そして、貴くんを抱きしめてあげる。
「怖いんだよ…」
感情がストレートなモードの貴くんは、素直にそう言った。その様子にこっちまで怖くなる…。
「大丈夫。何があっても平気だから。ずっと一緒にいようね」