1/12 (木) 16:00 お土産

結城が帰ってきた。

「悪いな、大事なときにそばにいてやれなくて。でも責任を持って、響と舞さんを連れ帰ってきたぞ」

両殿下のご遺体は損傷が激しく、現地で荼毘に付されたとのことだった。そして、僕に小さな箱を差し出す。

「響の妹さんから、やはりお前に持っていてほしいということで、預かってきた」

それって…。

箱を開けてみるとやはり。そこには、僕があんなにもほしがっていた、殿下のリングが収められていた。

「これのおかげで、身元確認できたんだ。正直言って、言葉では言い表せないくらい悲惨な現場だったけど、これには傷一つついていない。響はまだ生きてるよ。ずっとお前のそばにいる」

…程なく号泣した僕を、結城は落ち着くまで抱き締めてくれた後、リングを僕の右手の中指にはめてくれた。…ぴったり来る。手を広げて眺めて、それからぎゅっと握りしめて、胸に当てた。

温かく感じる。

両殿下は、雪深い山中で亡くなられたと聞いた。でも結城が言う通り、殿下の存在を感じる。

「結城も、殿下から、悪い予感の話を聞いていたの?」

「ああ、最初は信じなかったんだけど、あまりにも確信めいた口調で話すから、最後には、そうなるかもしれないという想定の下、いくつか引き継ぎをしておいた。もちろん、俺だってこんなにも早く実現してしまうなんて思っていなかったけど、沢渡に黙っていようと言ったのは俺だ。…いや、アイツのことだから、夢の中にでもまた急に現れるんじゃないかと思ってな。…いや、すでにここにいるのかもしれないぞ」

え?…すると、言葉通り、一瞬リングが光ったように見えた。

「殿下、本当にここにいらっしゃるのですか?」

思わず声に出して辺りを見渡すと、殿下のことばが、脳に焼きついた。

“沢渡くん、お土産は気に入ってくれた?これからは君が皇太子だよ。君の仕事ぶりを僕はいつも見ているからね、さよならは言わないよ”

「結城!」

「ああ、俺にも聞こえた。…というか、脳に直接インプットされたような、不思議な感覚だったな」

殿下…。殿下はいつもそばにいらっしゃる。このリングがあれば、僕は頑張れる。・・・殿下の分も仕事を務め上げますから、見ててくださいね。

僕はリングにキスをして、涙を拭った。今が大切な時だ。僕がしっかりしなければならない。もう、涙は十分だ。皇太子としての務めを果たさないと…。じっとしていてはいけない。今は仕事に精を出して、気を紛らわせているほうがいいに決まっている。

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