1/14 (土) 1:00 自覚

そういうわけで、今日は結城が僕の部屋に泊まってくれることになった。いつもなら、僕が結城の部屋に行くのだけど、今は殿下のピアノがあるここの方が、この状況を打破するためにはいい。

「結城、ピアノの練習に付き合って。…僕が取り乱したら、落ち着かせてくれる?」

「だから、そんなに無理して弾かなくてもいいって」

「でも、ここで乗り越えないと、一生ピアノを弾けなくなる気がして…。結城がいれば安心だし…。あ、好きにしてていいから」

分かった、と、結城はパソコンとお酒を取りに行って、ソファーセットに腰を落ち着けた。

思い浮かんだ曲を、片っ端から演奏する。…それは、重く静かな曲ばかりだ。でも、これなら弾いていても全然辛くない。…そうか、いきなり明るい曲を弾いたから、余計に悲しくなったのか。

…どうしよう。国葬での演奏曲も、こういう曲の方がいいのかな?大丈夫だと思っていたのに、全然大丈夫じゃないし、微笑むだけの余裕ができる気がしない。それよりも、僕の気持ちを決めた曲を演奏して、僕の決意を示すほうがいいような気がしてきた。

ふと結城を見ると、すっかり手を止めて、僕のほうを見ていた。

「その曲のほうが、お前らしくていいんじゃないか?式もグッと引き締まるし」

「結城もそう思う?」

「ああ。別に響にみたいにならなくても、お前はお前らしい皇太子になればいい。響もお前の成長を見るのを楽しみにしていたから、響を喜ばせようだなんて考えなくても、一皮剥けたお前の姿を見せたほうが、きっと喜んでくれるんじゃないか?」

なるほど、そういうものか…。

「分かった。それならそういう方向で、朝霧ともう一度リハーサルしてみる。…よかった、心配事が減って、僕自身も少し安心した」

「そういうことなら、俺も少し安心した。…来いよ」

結城に呼ばれてソファーのほうに行くと、優しく抱きしめられた。

「こんな時で悪いが、まずは国葬と即位の儀で、しっかり仕事をすることを第一に考えろ。世間の目はお前に同情的だが、何事も初めが肝心だ。お前が涙に暮れてばかりいたら、世間が心配するし、外国に付け入る隙を与えてしまう。だから、泣くのは俺の胸だけにしろ。その代わり、俺の胸でなら、どれだけ泣いても構わないから、外では絶対泣くな。それが皇太子ってものだ」

ビクッ。慰めてくれるのかと思いきや、結構キツイことを言ってくるな、結城は。確かに、殿下も舞さんには、公務を最優先させるとおっしゃっていたそうだ …僕も強くならないと。僕ならできる。殿下や世間のみなさんの期待に応えることができる。…今は集中しよう。しっかり仕事を務めなくては。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です