2/5 (日) 23:30 損得勘定

そういうわけで、夜、今日はヴァイオリンを持参して、沢渡の部屋に向かうことにする。

「沢渡は、時期が大事だって言ってくれたよね。僕としては、もう1回くらいコンクールで優勝して、僕の実力を認めてもらえたら、独立しようかと考えているんだけど」

「なるほどね。どのコンクールに出場するんだ?」

「まだ具体的には決めてないけど、やっぱり夏くらいかな?これからアルバムを出して、そのあとプロモーションとか、リサイタルもあるし、なかなか練習をする時間が取れないのが悩みの種だよね」

「でも時間はみんなに等しく与えられているからな、そこは工夫して、時間を捻出しないと」

…と言われると、やっぱりオーケストラのことが気にかかる。

「沢渡は、時間を捻出するために、どんな工夫をしてる?」

僕よりはるかに忙しいはずの沢渡は、時間をとても上手にやりくりしている印象を受ける。

「皇太子になってから実践していることとしては、何でもかんでも自分でやらないってこと。任せられることは任せないと、時間を取られるだけでなく、部下も育たなくて、余計に面倒なことになるからな。一歩引いて、即座に冷静な判断を下せる指揮官でいるように、心がけているよ」

なるほど。…沢渡と僕とでは、すっかり立場が変わってしまったんだね。参考にできそうなことは、残念ながらない。

「じゃあ逆に、無駄かもしれないと分かっていても、やっていることとかある?」

すると、うーんと首を傾げて、考え始める。

「損得はあまり考えないようにしてる。正直、あまり気が進まないことも中にはあるけど、何かの縁でやることになったわけだから、そこはこなすように頑張るよ。苦手なことから学ぶことは多いからな」

うっ。沢渡にそう言われると、何も言えなくなる。そうか、損得は考えないか。

「でも、こまめに生活を見直すためのミーティングは行うようにしている。気になることは、加藤や結城、深雪や、もちろん朝霧にも聞いてもらって、少しでも有意義に過ごせるようにしているよ。…最近、加藤といる時間が長いし、また加藤もいい意味で遠慮がなくなってきたから、アドバイスには素直に耳を傾けるようにしている。やっぱり、何だかんだ言って、人生経験を積んでいる人の言葉には重みがあるね」

なるほど。僕にとって、沢渡の話には重みがあると感じるように、彼にとっても、そう感じる場面があるということだ。…それに沢渡には、結城さんという最強の味方がいる。

「でも、若いうちの苦労は買ってでもするように、っていうじゃない?だから、朝霧が今苦痛に感じてることも、そのうちきっと報われると信じて、もうちょっと頑張ってみたらどうかな?今は人生も長いんだし、どうせもうすぐ独立することになるんだし、何かしらの収穫を得られるように頑張ってみなよ」

うん。沢渡の言葉は、素直に聞ける。そうだね、もう少し頑張ってみよう。

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