もう~、本気で終わらないよこの宿題。
以前に比べて学校へ行く時間が短くなっているから、だんだん分からなくなってきているのは事実・・・。これ以上沢渡の仕事を増やしてはいけないと思いつつも、気がつくと部屋の前まで来てしまっている僕がいる。
「今いい?」
「う~ん、用件による。明日は出張だから、資料に目を通しているところなんだ」
「これなんだけど・・・」
取り出した数学と理科の宿題。どうも僕は文系に偏りがちなのに対して、沢渡は理系のほうが得意みたいで・・・とはいえ、何でも出来るんだけど。
「いいよ、入って。ちょっと薄めにして」
はいはい。いつものようにコーヒーを淹れて持って行こうと思っていたけど、ちょうど切れたところだったみたい。薄めにしてなんてリクエストが出るところからも、すでに相当飲んでるということで。
「ありがとう。数学だけは終わってるから見てもいいよ」
「だけ・・・って、間に合うの?」
「明日の電車の中ででもやるよ。仕事の後の頭休めにはちょうどいいから」
・・・。でもいつも僕が聞きに来るせいか、数学からやってくれるところに彼の優しさを感じる。一応基本的には邪魔しないように、テーブルの端っこのほうに腰を下ろす。相変わらず綺麗な字で、書き直した跡もなく・・・。
「朝霧、教育係つけたら?その問題が解けないようだと、そろそろ限界じゃない?」
何だよ、資料に目を通してたんじゃなかったのか?
「そのままでいくと、スムーズに独立できるよ」
「追い出されるって意味?・・・もう、その悪い冗談、兼古先輩の癖がうつったんじゃないの?」
ちょっと笑えないよ、それ。すると沢渡はちょっとひるんだ、ゴメン・・・って。随分と素直じゃないか、気味悪い。何かあった?
「いや、加藤にも言われたところだったから」
そっか、今では加藤さんと名コンビだもんね。・・・あ!!右腕に光るアクセサリー。
「いつからしてる?それ。・・・深雪ちゃんの誕生日!!」
「ダメ、見せないから。・・・ほら宿題!」
慌てて隠すその様子、間違いなくこれはおそろいということで・・・。
「それってKZ?オーダー?」
「教えな~い」
・・・なんて嬉しそうな顔をするんだ、この男は!