4/6 (木) 11:00 始まりだというのに

始業式にクラスが発表されるのでまだ正式ではないけれど、二年生になってから初めての学校。なんだか信じられない。あっという間の一年だったけど、演劇そして希に出逢って、目まぐるしいほどいろんなことが変わった一年だったとも思う。正直言って親に無理やり入れられた学校だったし、友達を作るにしてもうわべだけの付き合いにはもううんざりしていた。なのに、今はどう?こんなにワクワクしながら学校に来てるなんて。

希は一足先に来ていて、今入学式に出席してる。そしてこれから部活があって、新入生歓迎会のための練習・・・先週の私の誕生日以来の希だわ・・・。

「こんにちは」

部室に入るのと同じくして、後ろから男の先輩が駆け込んで来た。

「ちょっと大変だよ、深雪ちゃんも聞いて」

先に来ていたみんなも何事?といった様子で先輩のことを振り返った。

「沢渡が入学式でキレたんだって。スピーチの時に新入生が静まらなかったから、机をバン!って叩いて、『静かにしなさい!』って一喝したらしいよ」

ウソ~、希が?

「悪魔降臨?」

「見たくないよ、そんなの」

普段学校での希は本当に穏やかな人で、多分みんなは怒ったところなんて見たことないんじゃないかな?でも去年の悪魔役のインパクトがあまりに強くて、「沢くんだけは怒らせないようにしよう」って密かに思っている人が多いみたい。

「今、講堂から出てきたマスコミが凄く騒いでたよ」

「沢先輩大丈夫なの?」

「でも・・・沢先輩が怒るなんて、よっぽどのことだったんだよ」

みんなあれこれと話に花を咲かせているけど、私も正直、大丈夫かな?って思う。希ってホントに報道に関しては細かいチェックを入れて気にしている人だから、今回のことが話題になれば少なからずイメージの低下につながるんじゃないかな?

でもそれより、その怒りがどの程度なのかが心配。だってこれから部活に来るわけだから・・・私も出来れば、希が怒っている場面には遭遇したくない。・・・いつ来るのかな?そろそろ来てもいい頃だよね。準備しながらもどんな顔で来るのかが気になって、チラチラとドアに視線がいってしまう。

「そんなに気になる?」

不意に後ろから話しかけられて、思わず「うわっ」と叫んでしまいそうになった。脅かさないでくださいよ、朝霧先輩。しかもいつの間に来てたんですか?

「大丈夫だって。最初の躾は肝心でしょ、怒ったのには正当な理由があるわけだし、あの場では当然のことだよ」

「見てきたんですか?」

「いや、さっき加藤さんから聞いたんだ。見事な先制攻撃だったって、褒めてたよ」

そうなんだ~、よかった。でもまだ怒ってるんじゃないかってことは心配なまま・・・。多分他の人がたくさんいるから大丈夫だと思うけど、何するか分かんないところがあるから。

ねえ、それより・・・と、突然部室の隅に連れて行かれた。

「ブレスレット見せてよ。僕もプレゼントの参考にしようと思って」

そうか、外国に彼女がいるんですよね。

「でも・・・」

「どうせ、バレるのだって時間の問題でしょ」

それはそうかもしれませんけど・・・。渋々差し出すと、先輩は目を輝かせてデザインに見入っていた。「凄く似合ってるよ、さすがにいいセンスしてるよ・・・」なんて言われると、とっても嬉しい。

「あ、それは!」

気がつくと、内側を覗き込まれていた。そこには希からのメッセージが!!

「あ・・・」

でも次の瞬間、先輩が呆然と手を離した。

「あのね~、俺の機嫌が悪いって知ってて、そういうことしてるわけ?」

雷に打たれたように一瞬ビクッと固まってから、じわじわと両手を挙げた先輩の肩越しに希が。しかもこわ~い顔で。うわっ、私まで一緒に怒られそう。でも私は悪くないよ、ね。

「いや、その~。だからプレゼントの参考にしようと思って」

ね~深雪ちゃん、って相槌を求められ、その上希が背後にいるのをいいことに、助けて~、って口パクで訴えられたけど、私には先輩に同情する理由なんてない。私だって希が怖いよ~。

「先輩、ごめんなさい」

小声で謝って脇の下からすり抜けると、希にしては柄が悪く斜に構えて腕組みをしていた。

「今度こんなマネをしたら、分かってんだろうな!」

「分かってるって。・・・僕が悪かった」

分かればよろしい、といった様子で、今度は私のほうに向き直った。

「お前もなあ、悪い人が近づいてきたら逃げろよな。呆れて物も言えないよ」

ごめんなさい・・・。やっぱり怒られちゃった。そうだよね。

ブレスレットをもらってすぐには気づかなかったんだけど、帰りの電車の中でじっくり眺めていて気づいた。内側に文字が刻まれていたのだ。ただし外国語みたいだったので、読めなくて聞いてみた。

「どんな時でも心はそばにあるよ。希より深雪へ」

絶対内緒だからな!って釘を刺されていたのに・・・バレちゃったかな?

「大丈夫、アイツには読めないから」

そうなんだ、それで呆然としたんだ。じゃあ、先輩は無駄な努力をしたわけ?それはそれでかわいそうな気もするけど・・・。

いえ、そんなことを言っている場合じゃないんです。久々に希も朝霧先輩も来てくれているんだから、練習しなきゃ。じっくりいかないところがいっぱいあるんだから。さっきはああ言っていたけど、機嫌は・・・悪くないよね、よかった。

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