4/19 (水) 21:00 テレビ局の廊下で

来月から出演するドラマの打ち合わせに来ていて、ある噂を耳にした。「今日は殿下がお見えになるんですって!」

辺りの、特に女性がそわそわしている。いや、俺だってそうだよ。会えるかどうか分からないけど、会ったら、「殿下」って呼ばなきゃいけないんだよな。それに敬語もうまく使えるかどうか・・・。会いたいけど会いたくないような気もして、かなり複雑な心境・・・。

「こんにちは兼古さん、ご無沙汰しております」

いきなり「兼古さん」と来た。普段は「先輩」って呼ぶくせに。・・・ここは意を決して。

「こちらこそご無沙汰しております、殿下」

差し出された右手を握り返してもこれが当たり前といった様子で、沢渡は顔色一つ変えなかった。新聞やテレビで沢渡の仕事振りは見ていたけれど、実際こうして学校の外で会うと、スーツ姿も俺より似合っていて、自信に満ちた表情をし、何よりもオーラが漂う。紛れもない皇太子殿下なんだって思った。思わず、気後れしてしまう。

「ちょっと髪が伸びましたね」「××の雑誌を拝見しましたよ」「ドラマを楽しみにしています」・・・いろいろ言われて何とか返したようだったけど、自分ではよく覚えていない。あまりにショックで。加藤さんも言っていたけど、学生というのは特殊な身分だったんだ・・・一瞬にしてもう、学生気分は消えてなくなったよ。

去っていく後ろ姿・・・は、加藤さんをはじめとする仕官のみなさんにすぐ遮られ、悲しいやら、悔しいやら・・・。それでも本当にこれからも友人でいてくれるのだろうか・・・。

・・・しかし打ち合わせを終えて携帯を見ると、メールが入っていた。

『先輩、さっきは気疲れさせてしまって、すみませんでした。僕もあれが仕事なので、悪く思わないでくださいね。今度プライベートで、食事に行きませんか?お電話差し上げますので、よろしくお願いします。 沢渡希』

よかった、これは俺が知ってる沢渡だよ。慣れていかなきゃいけないんだよな・・・。

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