4/29 (土) 18:00 若さ

「沢渡くん。君を見ていると、つくづくその若さがうらやましくなるよ。随分と密度の濃い時間の過ごし方をしているようだね」

陛下の住居がある、いつもとは別の塔で、宮殿の幾何学的でスタイリッシュな全景を見下ろしながら、陛下と沢渡の三人で夕食を共にしている。日が落ちて照明が入ると、各部屋や通路から間接的に光が漏れ、それはそれは幻想的な趣きになる。しかし、テーブルに置かれた、ほのかなろうそく越しに浮かび上がる陛下のお顔は、疲れを隠せないご様子だ。

「お陰さまで、毎日、これ以上ないというほど充実しております。この機会を与えてくださった陛下には、感謝してもしきれません」

一方の沢渡は、陛下がおっしゃるように、俺も時々うらやましくなるくらい元気だ。今日も、昼の休憩にさっと抜け出して、深雪ちゃんに会ってきたらしい。ここ数日多分あんまり寝てないだろうに、どこからそのエネルギーが湧いてくるのか、加藤はほとほと困り果てているらしい。

「一つ陛下に申し上げておきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

陛下は、言ってみなさい、と、一旦手をお休めになり、沢渡は建築を学びたいという意思をはっきりと申し上げた。もはやこれは決定事項であると言わんばかりの自信に満ち溢れ、人生の楽しみとして学び続けたいと、目を輝かせていた。

そうだよな~、この仕事をしていれば、世界各国のいろいろな建築物に実際に触れることができる。建築家と話すことも出来るだろう。俺はその方面にはあまり詳しくないから分からないけれど、何にしても息抜きは必要だ。陛下は読書、俺はドライブ、・・・沢渡は今は学校で息抜きしているのだろうが、これから長く付き合っていける趣味を見つけることは不可欠だ・・・と俺が教える必要はなかった、か。

「この会議が終われば修学旅行だね、・・・ゆっくり楽しんできなさい。それとも・・・楽しめないか?」

「またご冗談を」

と沢渡は返したが、・・・楽しめないんだろうな、きっと。どうなることか。

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