5/17 (水) 23:30 大きな愛に包まれて

真夜中・・・。沢渡が急に部屋にやって来て、俺にすがりつくように肩に顔を埋めた。大体の事情は加藤から聞いているから、想像はつく。部屋に帰ったらご両親から手紙の返事が何らかの形で届いていた、でも真夜中だからどうすることも出来なくて、俺の部屋に来た、と。

沢渡には内緒にしているけど、ご両親とは今でも定期的に話をする機会を設けている。親代わりとして、沢渡がご両親といい関係を築けるように努力はしているつもりなのだが、力不足で非常に申し訳ない。高三にもなってまだ俺の胸に飛び込んでくる辺り、甘やかせ過ぎは否めないな・・・。でも・・・言い訳にしかならないけれど、俺にしたって子育てなんて初めての経験だったんだから。

「思っていることを素直に書いたら、随分楽になったよ。それに、無理しなくていいって返事をもらったんだ」

泣いてはいなかった。ただ胸がいっぱいになったんだと、やがておとなしくソファーに腰を下ろし、届いた手紙を見せてくれた。・・・お母さまの筆跡だった。

『あなたは親を大切にしなければならないという強迫観念に駆られていませんか?あなたの身近にはあなたを無条件に愛して、育ててくれた方がいらっしゃるでしょう?帰る場所は一つあれば十分です。・・・形よりもあなた自身の心が大切なんですよ。あなたが会いたいと思った時に会いに来てくれるだけで、十分です。あなたはもう大人なんですから』

ここまで割り切るにはかなりの時間が必要だったに違いない。今度は俺のほうが胸が痛みそうだ。でも沢渡には、自分で自分を追い込んでしまう癖がある。俺に対しては、こうして会いたいと思った時に、その気持ちのまま来ることが出来るけれど、変に意識しすぎるから、ギクシャクしてしまうのだと思う。お母さまが仰る通り、自然にしていたほうが返ってその思いが湧いてくるのかもしれない。・・・離れていても、息子のことはよくお分かりになるのですね。

「お前はお前らしく自然体でいろ。感情を自分でどうにかしようなんて思わないで、自然に任せておけばいいんだ。人を愛する気持ちも、優しさも、感謝の気持ちも、みんな持ってる。使いたい時に使いなさい」

「結城・・・。ありがとう」

あ、こんな感じで?と微笑んできた。そうだよ。

「俺が思うに、それだけ気にしているということは、十分愛しているということじゃないか?」

「そうなのかな?」

そうなんだよ、きっと。ごく自然に心から愛せるようになる日が来るよ。俺の元へも来たい時に来ればいい。親というものはいつでも両手を広げて待っているもの・・・じゃないかな?

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