5/29 (月) 18:00 心のドア

今までは感じたことがなかった。

誰にも頼らない、結局は自分自身しか信じられない。

これからもずっとそうだと信じて疑わなかった。

窓から見える校舎にはどれも色がなく直線的。

無駄なものはすべて省き、合理性のみを追求した結果がこれである。

誰もが上を目指すための通過点にしか思っていない。

夢に近づくためには、他のものなど何も必要としない。

他人へ干渉しない、からされもしない。

そんなエゴイストが多数を占める・・・イスト学園。

誰もいなくなった生徒会室で、僕はキャスター付きの椅子を後ろに滑らせ、両足を机の上に載せてみた。・・・スリッパのままじゃカッコ悪いな、ここはやっぱり靴でなければサマにならないよ。じゃあ、脱いでみる?いや、この靴下が白ではなくせめて黒だったら・・・。そんなくだらないことを考えている自分が急にバカバカしくなって、やっぱり足を下ろすことにした。いつもと違うことをしてみれば何かが見えるかもしれない、そう思ったのに、現実なんてこんなものだ。

実際問題、アイツのほうがずっと規則や義務に縛られているのに、どうしてあんなに自由に見えるのだろう?どこからあの余裕は生まれてくるのだろう?

他人を見て、こうはなりたくないとか、まだ僕のほうがいい、と思ったことはあったけど、憧れるなんてことは初めてだ。もちろん僕にも友人はいるし、生徒会長をさせてもらっているくらいだから人望はあるほうだと思う。でもいつでも一番でなければ気が済まなかった。自分より上を行く人間がいるなんて許せなかった・・・そう思っていたのも今では遠い昔のことのようだ。どうしても敵わないヤツに一度出逢ってしまったら、一番にこだわり続けることに何の意味もないことに気づいた。逆にもう争わなくていいと、気持ちが楽になっているくらいだ。

そしてアイツは平然と言うんだ。

「僕は深雪に出逢ってから、随分変わったんだ」

と。天下無敵の皇太子殿下のパワーの源が愛することだなんて、真面目に努力している自分がバカバカしくも思えてくる。でも恋愛にしろ、演劇にしろ、今まで僕が無駄だと決めてかかっていたことに、僕よりも優れているこの男は夢中になっている。・・・それが彼と僕との決定的な違い。そして僕もだんだん感化されてきたのかもしれない、この四角い空が大きく色を変えていく様子が、やけに眩しく感じられるようになってきたからだ。

コンコン・・・。

不意にノック音が心に響き渡った・・・と錯覚したのはあまりにぼんやりし過ぎていたせいだと思い、我に返った僕は短く返事をした。

「どうぞ」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です